約 2,288,044 件
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/3079.html
キョンの病欠からの続きです …部室の様子からもっと物が溢れ返ってる部屋を想像したんだが…。 初めて入ったハルヒの部屋はあまり女の子らしさがしないシンプルな内装だった。それでも微かに感じられるその独特の香りは、ここが疑いようもなく女の子の部屋なのだと俺に認識させてくれた。 「よう、調子はどうだ?」 「……だいぶ良くなったけど…最悪よ」 …どっちだよ。 ハルヒは少し不機嫌な表情でベッドに横になっていて、いつもの覇気が感じられなかった。いつぞやもそう思ったが、弱っているハルヒというのはなかなか新鮮だな。 「ほら、コンビニので申し訳ないが、見舞いの品のプリンだ。風邪にはプリンなんだろ?」 サイドテーブルに見舞いの品を置くと、ハルヒはそれと俺の顔を交互に見つめて訝しげにこんなことを言ってきた。 「……あんた、本当にキョン?中身は宇宙人じゃないでしょうね?あたしの知ってるキョンはこんなに気が利かないわよ?」 弱っていても失礼な奴だな、お前は。俺にだってこの程度の気遣いは出来る。 「…ま、昨日は世話になったからな」 実際、熱にうなされ苦しんでる時にハルヒの存在にどれだけ救われたことか。あと、その風邪を移したのはほぼ間違いなく俺だろうしな。 そう思うと俺は何かせずにはいられない気持ちになってしまい、その素直な感謝の気持ちが俺に自分らしくない台詞を口に出させていた。 「何かして欲しいことあるか?宇宙人を連れてこいとかいう難題以外なら、今日は素直に言うことを聞いてやろう」 俺がそう言うとハルヒは黙ってしまった。時計の秒針の音だけがカチカチと部屋に流れる。 そろそろ沈黙が痛くなってきて、俺が自分の台詞を後悔し始めた頃、ハルヒは絞り出すように少し震えた声でお願いを口にした。 「…………手」 「ん?」 「……昨日みたいに手を握りなさい」 「ああ…」 差し出された右手に俺も右手を重ねる。……素面でやると結構恥ずかしいもんだな。 ハルヒの熱が伝わったのだろうか?俺の顔も熱くなってきた。きっとハルヒの手が熱いからだ。うん、そういうことにしておいてくれ。 「……あと、頭撫でなさい」 ……そんなことを命令口調で言っても威厳はないぞ? 「……早くしなさいよ」 恐る恐る手を伸ばし髪に触ると、ハルヒは一度ビクッと強張ったが、その後はおとなしく髪を撫でられていた。 そうしてさわさわと撫で続けていると、ハルヒはくすぐったそうに目を細めていたが、少し無理をして起きていたのか、1分もしない内に眠りの世界へと落ちていった。 どのくらいそうしていただろうか?目の前のハルヒからはスゥスゥと規則正しい寝息が聞こえてくる。 黙っている時のハルヒは反則的なまでに可愛く、それがまたあどけない寝顔なのだから、じぃっと見ていると妙な気分になってくる。 いかんいかんと頭を振りながらも、俺はどうしてもハルヒの寝顔から目を離せずにいた。 今までこんなに穏やかに、じっくりと、しかも本人の目の前でハルヒについて考えたことはなかった。 だからだろうか?その事実に気が付いてしまい、そして驚くほどすんなりとそれを受け入れることが出来たのは。 俺はなんだかんだでハルヒのことを憎からず思って…いや、むしろ積極的な好意を持っている。 「……そうか、俺はハルヒのこと好きだったんだな」 それを言葉にして口に出してみると、急に落ち着かなくなり恥ずかしさが込み上げてきて、俺はハルヒが起きる前に帰ってしまうことにした。 椅子から立ち上がり鞄を手に取ろうとした時、俺はハルヒの額に浮かんでいる汗の存在に気が付いた。 …クソ、気になっちまった。 ハルヒの穏やかな寝顔に似合わないその汗がどうしても許せず、気が付くと俺は枕元のタオルを手に取っていた。 ハルヒの額の汗を丁寧に拭うと、シミひとつない白い肌が露になる。純粋に綺麗だな…と思っていると、ハルヒは不意に俺の名前を呟いた。 「……ん…キョン…」 「…………」 チュッ …………待て、俺は今何をした? 俺の唇に残るほのかな温もりは間違いなくハルヒのそれであり、ハルヒの額に残る微かな赤みは間違いなく俺が付けたそれだった。 要するにキスだ。キス?額にとはいえ俺がハルヒにキスをしたのか? ぶわっと今度は俺の額に汗が浮かんでいくのを感じる。ハルヒの寝息が聞こえなくなるほど心臓の音は大きくなっていった。 俺の頭に窓から逃げようという意味不明な選択肢が浮かんだ瞬間、ハルヒは静かに目を覚ました。 「……ん」 ゆっくりと、ハルヒの目が開いた。 ヤバイ、怒鳴られる。いや、むしろ殺される。 上がりっぱなしの心臓の回転数は今にも限界値を突破しそうだった。 宇宙人でも未来人でも超能力者でもいい、自業自得なことも分かってる、それでもお願いだ。時間を1分前に戻してくれ! 「……あ…今少し眠ってた?」 …気が付いてないのか? 「…え?あ、そうだな、10分くらいかな?」 …気付かれなかったことにほっとした反面で、少し残念に感じるこれはどういった感情なのだろうか? こちらの動揺をよそにハルヒは俺をじっと見つめ、なにげない一言で止めを刺した。 「今日はありがと、キョン」 「…ッ…」 その素直な感謝の言葉が胸に刺さり、心臓が止まりそうなほどの罪悪感が俺を責める。こんな気持ちになるのなら、いっそのこと気付かれて公開処刑されたほうがまだマシだ。 脳内裁判にて裁判長・長門が俺に有罪を言い渡したところで、目の前に予期せぬ逃げ道が現れた。 「…ふゎ…まだ眠いからもう少し眠るわ」 「あ、あぁ、眠いなら寝たほうがいいぞ、うん。なんせ風邪だからなっ」 自分でも不自然だと思える早口に俺の動揺は更に深刻なものになっていき、それがとんでもなく卑怯な行為だと理解しつつも、俺には真実を語らずに逃げ帰るしか、自らを落ち着かせる術はなかった。 「じゃ、じゃあ、俺は帰るな!また明日っ」 バタン! 転がるようにハルヒの家から出ていくと、外は既に暗くなり空には綺麗な月が浮かんでいる。 ふとハルヒの部屋を見上げると、まだ眠ると言ったはずのハルヒがこちらを見下ろしていた。 何か言っているような気がしたが聞き取れるはずもなく、俺は明日からどんな顔でハルヒに会えばいいんだろう?と思いつつ、逃げるように家路に着いたのだった。 「……どうせなら口にしなさいよ、馬鹿キョン」 End
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/5844.html
涼宮ハルヒの遭遇Ⅴ 俺たちは為す術なくただ巨人たちの破壊活動を見つめるしかできなかった。 あの巨人の破壊活動は、この世界を拡張している―― 古泉はそう言っていた。 拡張していき、やがてはポニーハルヒの世界と入れ替わる。 で、その後はどうなるってんだ? 俺と長門はその世界で生きていくのか? いや、もしかしたらその新世界では俺と長門は今の俺たちじゃなくなってポニーハルヒの望む俺と長門になるのかもしれん。 新世界には当然、ハルヒ、俺、長門、古泉、朝比奈さんはもちろん、谷口や国木田、鶴屋さんに阪中、消えちまった朝倉だっているだろう。 しかしそれは俺たちの知るそいつらじゃないんだ。 ましてや俺と長門は記憶を書き換えられてしまう可能性がある。 「どうする?」 「……」 問いかけてきたのは俺の隣に佇む長門だ。もっとも俺は三点リーダ沈黙しかできないがな。 ちなみにポニーハルヒはというと俺たちのやや前で、肩越しに覗く表情はどこか羨望の眼差しで青白い巨人たちに視線を向けているんだ。 どうやら何となくポニーハルヒには分かっているようだ。 あの巨人たちの破壊活動の先に何が待っているのかを。 そう言えばハルヒも以前言っていたな。 ――この世界だっていつまでも闇に包まれているわけじゃない。明日になったら太陽だって昇るわよ。あたしには解るの―― 今更ながらそれを思い出す。 ふっ、そうかそうかこれが三つ目の選択肢じゃないか。 俺と長門は本人なんだけど別人になって新しい世界で生きる―― 「って、そんなこと認められるわけがないだろう!」 「キョ、キョンくん……!?」 いきなり声を荒げた俺に、仰天して振り返るポニーハルヒ。 「あー悪い。ちょっと考え事してたら思わず」 「そ、そう?」 取り繕った苦笑を浮かべる俺だが、ポニーハルヒの戸惑いにも似たびっくり眼はまだ崩れていない。 つっても俺が何を考えていたかを言うわけにはいかんがな。 「ねえキョンくん、部長」 「ん?」 しばしの沈黙の後、今度はポニーハルヒがどこか楽しげな笑顔を浮かべて少しターンしながら俺たちに問いかけてきた。 「ここって不思議な世界だね」 まあな。 「こんな世界、マンガとか小説とかテレビの中だけだと思ってたんだけど」 それを言ったらパラレルワールドもそうなんじゃないかと思えないこともないぞ。 「そうなんだけどさ。でもね、あたしの住む世界と、キョンくんや部長の住む世界にはそこまで変ったところはなかったじゃない。何て言うのかな? 物理法則を揺るがすところもファンタジックなところもなくて単なる間違い探し程度の差しか」 言われてみればそうかもな。確かに性格的な違い以外はそこまで変わったことはなかった。 「楽しい?」 「ちょっと」 長門の無感動の問いに、なんだか感慨深げに答えるポニーハルヒ。 「だって、あたしは物語を創るのが好きだから。だからこういうファンタジーには憧れちゃう」 ポニーハルヒはなんとなくちょっと自嘲した照れている表情を浮かべている。その背後ではあの巨人どもが破壊活動に勤しんでいるわけだからなんだか俺の目にはポニーハルヒと巨人たちで別世界にいるような錯覚を受けるぞ。 しかしなんたってポニーハルヒはこんな話を? ……って、解りきったことじゃないか……俺と長門の『ポニーハルヒの知っている俺と長門化』の一環だ。 自分のことを俺たちに植え付けておいて記憶を書き換えようってことだ。 もっともポニーハルヒにそんな自覚はないだろうけどな。単なるこの世界の自分の感想を言っているに過ぎないつもりでしかない。自分のことを話すのもその延長線上のものだ。 だから無碍に打ち切るわけにもいかんぜ。なんたってこのハルヒの機嫌を損ねる――じゃないな、言い方を変えて精神状態を不安にさせるような真似を仕出かせばそれこそ俺たちはどうなるか分かったもんじゃない。 まだ自我が失われていない以上、そうならないような最善策を取らなきゃならん。 「てことは何だ? UFOやファンタジーの世界、悪の組織と戦う超能力者や辛く苦しい今を変えるために未来から来訪者が現れるとかそういった話も作るのか?」 俺はどこか苦笑を浮かべて聞いてみた。 「うん。あたしは、端的にたとえるけど、宇宙人、未来人、異世界人、超能力者がいるといいなって思っているから。でも現実はそうじゃない。だから物語の中にあたしの気持ちを込めて創るの。でも最近はちょっと日常的な話が増えてきたかも。 ただ、それはキョンくんのおかげ。あ、ちょっとごめんだけど、あたしの住む世界のキョンくんよ」 気にしなくていいぜ。別に俺は何もしちゃいない。 「でも向こうの世界で、今作っていたお話は久しぶりにファンタジックなものだったの。その途中でいきなり……」 ん? ちょっと待て。ひょっとして君は俺たちの世界に来てしまう前にそういう話を作っていたのか? 「あ……うん、今作っているお話ってパラレルワールドもので違う世界同士の主人公とヒロインの恋愛ものっぽいものを……」 ポニーハルヒはちょっと照れて恥ずかしそうな笑顔を見せているのだが……そう言えば、以前、俺だけしか知らない世界の内気な文芸部員も俺にパソコンの中身を見せるのを躊躇ったし、逐一、後ろから監視していたな。自分の作った小説を見られるのが恥ずかしくて。 あれと同じってわけか。 あっそうか。 どうりでこのハルヒが俺たちの世界に来ることはできても帰ることができなかったはずだ。 ったく、一生懸命なのは悪いことではないが、あんまりのめり込み過ぎるなよ。 つまり、ポニーハルヒは自分の作る物語の主人公だかヒロインだかに成りきって書いていたんだ。そりゃハルヒの能力を考えたら空想の世界であったとしても本気で『在る』と想像してしまったら別世界に飛ばされちまうだろうぜ。しかもパラレルワールドなわけだからたまたま俺たちの世界に来てしまったんだ。 もし、向こうのその場に俺と長門がいたならさぞかし驚いたことだろうよ。なんたって、目の前でいきなりポニーハルヒが消えたはずだからな。 んで、途中ってことはまだ主人公かヒロインを元の世界に戻す方法を考えていないってことだ。ほどほどにしとかないと大変だぞ。 「涼宮ハルヒに聞きたいことがある」 長門? 「何ですか?」 「あなたはこの世界をどう思う? また元の世界に戻りたいと思わないのか?」 どういうことだ? なぜ長門がこんな質問を? 「う、うん……できるなら元の世界に戻りたい……でも、この世界も悪くないんじゃないかと思えないこともなくて……」 「この世界にあなたの知る私と彼はいない。本当にそれでもいい?」 「長門お前!」 さすがに俺が非難めいた声を上げるのは当然ってもんだ。 なぜなら長門だってポニーハルヒの精神状態を不安定にさせる真似なんざできるわけがない。 にも関わらず今の言い方は何だ? 「そ、それは……」 ポニーハルヒがとたんに表情を曇らせる。 まずい……絶対にやばい…… 「ん?」 が、俺はこの世界の別の変化に気がついた。 何と言うか……音が消えたんだ。 ふと辺りを見回せば青白い巨人たちが動きを止めている。破壊活動を休止しているんだ。 それがなんだか俺の目にはなんとなく巨人たちが破壊活動を躊躇っているように見える。 まさか――! 長門が狙ったのはこれか! 確かに巨人どもが破壊活動を停止すれば世界の拡大を止められる。新世界創造を引き延ばすことができる。もっとも文字通り時間稼ぎでしかないがな。 「で、でも元の世界に戻れそうにないし……キョンくんや部長に会えないくらいなら別世界に行ってしまったって……」 「それは嘘。あなたの本心ではない」 「ぶ、部長……?」 「なぜなら、もしあなたの言っていることが正しいとするなら私と彼もここにはいない」 あ――! 「あなたが望むのは我々ではないはず。だからあなたは元の世界に戻りたいと思っている」 そうか――長門が何を言いたいのかが解ったぞ―― 「それは我々も同じ。我々も我々の住む世界に帰還したいと望んでいる」 長門の本音を聞いたのは久しぶりな気がするな。あの『また図書館に』を彷彿とさせる言い回しだ。 そして俺は俺のすべきことを今、理解できた。 そうさ。長門はポニーハルヒに本心を自覚させて、そして俺たちの気持ちを言ってくれたんだ。 だったらここからは俺の出番だ。 そしてそれは俺でなければならないんだ。なぜなら、去年の五月、この世界から帰還を果たしたのは俺だ。俺でなければハルヒに教えられないことがあるんだ。 三つあった選択肢。 結局のところ、答えは去年と同じだ。もっとも能力を自覚させる必要はないがな。 俺は静かにポニーハルヒへと近寄り、その肩に優しく手を乗せる。 「キョンくん……?」 俺を見上げるポニーハルヒの瞳は不安でいっぱいだ。 ううん……こんな瞳を見せられてはキスはおろか、こうやって肩に手を乗せることですら悪いことをしている気分になってくる。 「なあハルヒ」 それでも俺は毅然と切り出した。 「長門の言う通りで、君は本当にこの世界に行ってしまっていいのか?」 「え……?」 「確かにこの世界だって朝が来れば日は昇る。いつもの日常が始まることだろう。しかしだな。それは君の知る世界ではないし、俺たちだって君の知る俺たちじゃない」 ポニーハルヒは黙って聞いてる。というより、なんとなく怯えが声を発せられなくしているように見えなくもない。 「本心から望むんだよ!」 俺は声を大にして言った。一瞬、ポニーハルヒがびくっとなったがその罪悪感を抑え込んで続ける。 「君が本当に望む俺を! 俺たちがここにいるのは君が望んだからなんだ! 元の世界に戻れないかもしれないと考えた君がせめて別人だけど本人でもある俺たちを連れて行こうと考えたから俺たちはここにいるんだ!」 「そんな……そんな夢物語があるわけないじゃない! だからあたしは……!」 「だったら試してみてくれよ。それで本当に『俺』が現れないなら、俺と長門は喜んで君についていく。この世界で暮らしたって構わない。記憶を書き換えられたっていいさ。だから試してみてくれ」 「キョ、キョンくん……」 俺は真摯な瞳でポニーハルヒを見つめる。しかしまだポニーハルヒの表情は半信半疑だ。 「考えてもみろよ。こいつは夢の中と同じなんだ。さっき、自分で言ったじゃないか。『宇宙人、未来人、異世界人、超能力者がいるといいなって思っているけど現実はそうじゃない』ってよ。 てことは今、現在、俺たちが直面していることだって現実じゃない夢の中ってことになるじゃないか。現に俺も長門も君の知っている俺たちじゃなかったんだから。夢の中なら何でも叶うんだぜ。本気で願えばな」 「う、うん……」 ポニーハルヒがどこか泣きそうな表情のまま俯くのを見てとれて、俺はようやく彼女の肩を離した。 ひょっとしたら結構力が入っていたかもしれないな。 痛かったらすまん。 「ううん。いいの……この痛さはキョンくんの本気の証……だからあたしも信じる……これが夢なんかじゃなくて現実だとしても……」 再び見上げてくれたポニーハルヒの表情には笑顔が戻っていた。 そして即座に俺たちに踵を返して校舎の方を眺める。 もしかしたら目を伏せて祈祷しているのかもしれんが俺に確かめる術はない。 なぜなら、もう俺と長門はポニーハルヒの傍に行ってはならなくなったからだ。俺と長門はポニーハルヒも俺たちも元の世界に戻れるように願った。それは言いかえればポニーハルヒとの決別を伝えたことでもあるんだ。 だから近寄る資格はない。そして彼女ももう振り返ることはないだろう。 というわけで彼女の傍に行くことを、彼女の表情を見ることを許されるのは―― ふと気が付けば、 そこには見慣れた古ぼけた自室の天井が見えた―― ~エピローグ~~~ 「ねえキョン、あの子、帰っちゃったのかな?」 「かもな」 ハルヒが窓の外を眺めながら物憂げにつぶやき、俺は団長席に座ってパソコンをいじくりながらやや曖昧に相槌をうっていた。 場所は月曜、放課後の文芸部室。 もちろん、長門はいつも通り窓際でハードカバーを読みふけているし、朝比奈さんも古泉もいる。 ただ今日は珍しく古泉のボードゲームの相手を務めているのは俺じゃなくて朝比奈さんだ。 もっとも、三人とも俺たちの会話に耳を立てているけどな。 「仕方ないだろ。パラレルワールドの出入口なんてそうそう見つかるものじゃない。仮に見つけたとしても開きっ放しとは限らん。だったら見つけてすぐ向こうの世界に行ってしまうのは自明の理だ。俺たちに挨拶なしだからって彼女のことを悪く思うのは良くないぜ」 「分かってるわよ。そもそもあの子はあたしなんだから、あの子の考えていることくらい、あんたよりも解るんだから」 「そうかい」 俺は苦笑を浮かべて返しつつ、不意に勝手に無意識に指が左クリック。 別にそこにmikuruフォルダがあったわけじゃないんだがな。かと言って画面に何かが表示されるわけでもない。右クリックなら意味のないボックスが表示されるが。 それにしても、こう元気のないハルヒでは、なんとなくこっちも調子が出ない。 てことで、俺はハルヒに元気を取り戻そうと話を変えるためのネタふりをやったわけだが、なんとも学習能力のない自分が嫌になる。 映画撮影のときに死ぬほど後悔したじゃないか、おい。 もうちょっと言い方ってものがあんだろ? このときの俺。 などと、後から自分に突っ込みを入れまくったことをやってしまったのだ。 「そう言えばハルヒ。さっき古泉に聞いたんだが、機関誌を作るんだってな」 その言葉を聞いた途端、物憂げだったハルヒの瞳に輝きが戻ってくる。 マズった……こいつ、忘れてやがったんだ…… 「そうよ! キョン! あの子のことがあったんで完全に後回しにしてしまってたんだけど、先週の金曜に決めたんだったわ! んじゃあちょっとどいて!」 とと。 言うや否や、ハルヒは団長席に座っていた俺を押しのけて机の上に何やらノートの切れ端を四枚準備する。 「こらキョン! こっち覗いちゃダメだからね! 今、各自、書いてもらうテーマのクジを作るんだから!」 ハルヒの爛々とした好戦的な笑顔に撃退されてすごすご引き下がる俺。 って、あ。 無意識にいつもの場所に座ろうとしたところ、そこには先約がいたんだったな。 「んあ!」 「あーすみません! 朝比奈さん!」 意図せず朝比奈さんのお膝の上に腰かけてしまった俺の重みを感じた朝比奈さんが何やら甘い悲鳴をあげておられます。 むろん、ハルヒがそれを見咎めないはずがない。 「何やってんのキョン! セクハラは重罪なのよ! とびっきりの罰を――!」 一足飛びに一瞬で俺に突っかかってきたハルヒなのだが越えてしまった場所がまずかった。 がしゃん しーん。 何かの絶望的な軽い破壊音に文芸部室が沈黙に支配される。 もうお分かりだよな。 団長席にあったパソコンのモニターが机から落ちたんだ。 「あ~~~~~! キョン! なんてことを!」 って、それは俺の所為じゃねえだろ!? お前が横から回ればいいものを机を飛び越そうとするからそうなったんじゃないか! 「うるさい! あんたがみくるちゃんにセクハラかまさなきゃこんなことにならなかったのよ! 責任とってあんたはこの小説を書くこと! 決定だからね! それとあんたのノートパソコンはしばらくあたしが使うから! あんたはそっちのワープロ使いないなさい!」 思いっきり怒りの表情で俺に一枚のくじを突き付けるハルヒ。 つか、ちょっと待て。ひょっとしてお前、俺にこのテーマの小説を書かせるためにわざとモニターを壊したんじゃないだろうな? などとツッコミを入れたくなるテーマがそこには書かれていた。 ん? 何が書かれていたかだと? んなもん禁則事項だ! 人に言えるわけがない! かと言って一度、これと決めたらハルヒが覆すわけもなく、俺の拒否権は発動されないまま、しぶしぶ俺は古ぼけたワープロを開いてスイッチオン。 できればこのワープロが壊れていることを願いつつ作動するかどうか確かめたわけなのだが―― 「ん?」 そこに映し出された画面には文章が既に浮かんでいた。 まあ確かにワープロはパソコンと違って電源を付ければ前の画面が残っているものなのだが…… 「どうしたの?」 「いやな、前の文芸部員のものだと思うんだが小説っぽいものが浮かんできてな……」 いぶかしく声をかけて来て俺の隣から画面を覗き込むハルヒに、やはりいぶかしげに答える俺。 ふと気がつけば俺の後ろから古泉、長門、朝比奈さんがワープロの画面を覗き込んでいる。 「随分長いお話ですね」 「でもどこかで見たような……」 「既視感」 古泉と朝比奈さんと長門もまたいぶかしげな声をあげていた。 まあ確かに長い。あと、いったい誰が書いたものかは分からんが…… 「って、ちょっと待て!」「何これ!?」 クライマックスのところで俺とハルヒの驚嘆の声が重なり、 「これはこれは」「ふわぁ」「ユニーク」 なんとなく面白がっている俺たち以外のSOS団の声が届く。 んで、エピローグ後、その末文にはこう書かれていた。 『キョンくん、そっちのあたし、長門部長、そして古泉さん、朝比奈さん、今回は本当にお世話になりました。 これはほんのささやかなお礼です。SOS団の皆さんとそっちの世界のキョンくんとあたしを見ていて思いつきましたのでみなさんを元にしたキャラクターを登場させてお話を作りました。突貫工事なので誤字脱字、ストーリー構成には目を瞑ってください。 あ、でもこれじゃお礼になっているかどうか分かんないですね。 ただ、なにやらそっちのあたしが機関誌を作るって言ってたのでこのお話を、できればあたしかキョンくんが作ったことにしてもらえませんか? だって、あたしのことを夢にしてほしくありませんし、あたしも皆さんとの出会いを夢にしたくありませんから。 またいつか、皆さんと再会できる日が来ることを。 今度はこっちの世界のキョンくん、長門部長、古泉さん、朝比奈さんも一緒に連れていけたらな、と思ってます。 涼宮ハルヒ』 俺は即座に長門に視線を向ける。 ポニーハルヒは土曜と日曜の境に帰ったと思っていたんだが、これが書けるとすれば昨日しかないわけで、元の世界と向こうの世界の出入口を繋げたままにできる奴がいるとすればそれは長門しかいない。それも二人がかりなわけだからどうとでもなるのは自明の理だ。 もっとも閉じてしまえば扉も消えていかに長門と言えどどうにもできないだろうが、留めておくなら話は別なのだろう。 んで、その長門は俺が視線を向けた途端、珍しく俺から視線を逸らしてやがった。 「どうされたんです? 目を逸らしたということは何かこのお話に思い当たることでも?」 黙れ古泉。俺が長門に視線を移したことをハルヒに悟られないようフォローしてくれたことには感謝するが、思いっきりニヤニヤしながらではその感謝の意も地平線の彼方に吹っ飛ぶってもんだ。 「でも本当によく出来てますね。あたしたちもよく表現されてますし、この主人公さんとヒロインさんもキョンくんと涼宮さんそっくりです」 「み、みくるちゃん! 何言ってんのよ! あたしとキョンがこんなこと! というかこれが現実的にあるわけないじゃない!」 そんなハルヒの狼狽風言い繕いを聞きながら、俺は古泉から視線を逸らし続けていた。 何? どんな話が書かれていたかだと? 知ってどうする? んなもん、特筆すべきことじゃない! 「彼女は世界が違う故、知らなかったと思われる。しかし、あの涼宮ハルヒが残していったSSは、『涼宮ハルヒの憂鬱』そのものだったのである」 って、ながとぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ! 涼宮ハルヒの遭遇(完)
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/2871.html
涼宮ハルヒの悲調 ●第一部 何をしていたか思い出すのに、しばらく時間を要した。 やがて目を開けるのを忘れていたことに気づく。 カーテン越しの世界から、濁った光が溶け出している。 そういえばずっと雨だなあ、と口に出すと、ベッドで寝息を立てる朝比奈さんが何か呟いた。 ――何をしているんだろう。思い出したはずなのに、また忘れている。 SOS団が一週間前に解散した。理由は一つ。ハルヒが死んだ、それだけだ。 この事態を飲み込むのは、酒に弱い俺が飲み慣れない日本酒をゲロするよりも早かったが、それで爽快、というわけにはいかなかった。 うすぼんやりとした哀しみはここの所続く雨みたいに降りしきる。 積もることはない。薄い涙の膜が脳みそを綺麗にコーティングしてるみたいだ。 うすぼんやりのままだ。たぶんずっと、おそらくだが。 死んだ次の日、俺たちは――旧・SOS団員は――部室に集まった。 あいつのつけていたコロンの匂いがした。あいつの座った椅子があった。あいつの描きかけの下手糞な絵が。あいつのバニー服が。 誰も何も言わなかった。風が吹いて、カーテンが揺れた。古泉が口を開いた。 「彼女が……涼宮さんが亡くなったことによる影響は……ありません。彼女は死ぬ直前、自らの能力を最大限に利用し――書き換えていたのです」 「……どういうことだ?」 「この世界がこのまま続く、ということですよ。あえて言うなら、僕は普通の人間に戻りました。朝比奈さんはこれからの未来を抹消されていて……いや、どう説明すべきでしょうか? つまり……」 「あたしは、未来人ではなくなった……ってことです。本部とも連絡は取れなくなってました」 「そういうことです。彼女の”本部”も、僕の”機関”も、いずれは自然消滅するでしょう」 結局そのお偉方が何をしていたのか、俺は知ることもできんわけか。それはいいが、じゃあ長門はどうなるんだ? まさか―― 「ええ、そのまさかです。彼女は人間になりました。ありえないことですが……創造主がそう望んだんですから」 改めてハルヒの恐ろしさに気づいた。古泉曰くの「神いわゆるゴッド」とはこういうやつなのだ。 強情で意地っ張りで負けず嫌い。ギリシャ神話に加えて欲しいぐらいだ。 しかし、そう望んだ……とは。 「彼女は……この世界が続くことを願ったのです」 「……」 血液がものすごく遅く流れているのがわかる。俺は力を失って、団長の椅子に座り込んだ。 ありがとよ、ハルヒ……? でもな、意味がねえ。お前の力とやらはまるっきり役立たずだ。 お前がいないんじゃさ。 翌日にSOS団は解散した。 誰も止める者もいなかったし、止めようとも思わなかった。 全校朝会などが開かれて、ハルヒの死は大変に痛ましい出来事だと力説する校長。泣く女子。 俺は曖昧に顔を歪めてみたりもした。それだけだった。 本当に悲しいと涙が出ないらしい。 いつか堰が切れる日が、怖くて仕方がない。 ある雨の日、朝比奈さんは俺を呼び出した。 「もう、あたし、キョン君と仲良くしてもいいみたいなの……だ、だから……」 「朝比奈さん……」 俺たちは急速に近づいた。全校生徒が羨む美女だ。俺は幸せ者だっただろう。 だが。いつだって、ハルヒの顔は脳裏にちらついていた。 彼女と薄暗い部屋でセックスに耽っていても、ハルヒは俺の心の片隅に、確実にいた。 盲目的に俺は彼女を欲した。呼び名も「朝比奈さん」から「みくる」に変わり、彼女も俺を名前で呼ぶ。 ただただ、お互いがお互いを求めていた。何度も何度も交わり、全てを忘れた。 ――そうか。忘れたかったのか。 気づいても俺は求め続けた。 俺は長門とも関係を持った。長門は朝比奈さんと違い奥手だったが、それでも一緒にいるだけで落ち着けた。 放課後、「文芸部」になった部室。オレンジが眩しい部屋の中でキスをした。長門の唇は震えていた。 ふと部屋の隅に置かれたダンボールが目に入る。「団長」と書かれた腕章。 それは長すぎる、短すぎる時間。俺は長門に意識を戻した。 忘れたフリをした、という嘘。 長門の、時折漏らす噛み殺したような喘ぎ声だけが耳に入っていたはずなのに……確かに聞いていた。 「バカキョン!」 「! ……?」 「……どうかした?」 「い、いや……何でもない」 俺は貪欲に長門を欲した。暗がりでも長門の肌は白く透き通っていた。 忘れたいだけ、という真実。動かない。 雨の音は絶え間なく鼓膜を揺らしている。それは紛れもない悲調。 俺は、やはりハルヒの影を忘れることはできない。 ハルヒとは何の関係もなかった。ただ一度キスを……それも夢の中で。 でも、それでも、俺は唇の感触を忘れられない。驚いた顔も。髪の匂いも。温もりも。 その全てが愛おしかった。告白するが、俺はあの一度きりのキスのとき、どうしようもなくハルヒが愛しかった。 ずっとこうしていたいと思ったし、世界がどうなろうと関係なかった。 ただ俺とハルヒがいた。 ●第二部 11月になった。ハルヒが死んでからもう5ヶ月だ。 死んですぐの時には、「なあに、すぐに忘れられるさ」と思っていた。でも違った。俺は未だにハルヒの影を引き摺って生きている。 2ヶ月ほど経って俺は学校になかなか行かなくなった。いや、学校だけじゃない。家にもいたくなくなった。朝比奈さんも長門も一人暮らしだし、俺が望めばいくらでも寝床を提供してくれたので、しまいには家にも帰らなくなった。 やがて、俺は学校を辞めた。俺だけじゃない。朝比奈さんも、長門も、連れ立ってやめてしまった。 俺が二人と関係を持っていることをお互いに知ったときも、怒ったり嘆いたりしなかった。俺と朝比奈さんと長門は同棲を始めた。 そしてひたすら求め合い、堕ちてゆくのみだった。朽ち果てた精神が音もなく崩れた。俺達は生きて死んでいるも同然だった。 忘れたフリをして生き延びた。時間だけ過ぎて俺達を照らした。 ――ハルヒ、俺を笑うか? 季節は、もうすぐ冬になる。 初めて雪が降った日だ。古泉から連絡があった。 「お久しぶりです。元気でしたか?」 「……ああ。お前も元気そうだな」 「ええ、おかげさまで」 「そうか……で?」 「はい?」 「何か用があるんだろ?」 「……ええ。実は、部室を整理していたら……MDを見つけました」 「MD……?」 「ええ。涼宮さんの残したものです」 胸の辺りがぎゅっと締め付けられるような感覚に襲われた。眩暈がして、俺は座り込んだ。 そうか。あいつはいたんだ、確かに。他人の口からハルヒの名を聞くのは久々だった。 「大丈夫ですか?」 「……ああ。そのMDというのは」 「ええ、それが……あなたに宛てたメッセージです」 メッセージだと……? あいつが? 俺に? 何だって言うんだ……? 「何だっていうのかは知りません。僕も聞いていませんから。ただ、『キョンへ』と、そう書かれています」 「……」 俺は古泉に送ってもらうよう頼み、電話を切った。 その場に座り込んで、タバコを燻らしたけれど、落ち着くことはない。 ふとやわらかい感触が背中に重なった。 「どうしたの……?」 風呂上りの朝比奈さんが俺の首に抱きつく。嗅ぎ慣れた石鹸の香りがした。 彼女の吐息が耳にかかって、そうしてまた俺は眠たくなる。 「有希は……?」 「今買い物に行ってるわ……今日もカレーだって」 「俺は好きだな、あいつのカレー」 「ふふ、あたしも」 彼女が俺のうなじに舌を這わせているときも、ハルヒのMDの件は俺の脳みそにこびりついて取れやしない。 思い出すと涙が出そうで、俺は朝比奈さんの胸に顔をうずめた。 そのMDはすぐに届いた。 今は二人とも出かけている。俺一人だ。今、聞くしかない。 「このMDは、涼宮さんが病床に伏せている時に録音されたものです。最後に学校に来たときに部室に隠していかれたものと思われます」 古泉はそう言った。あいつは病気の体をおして部室に来て、そしてこのMDを―― 場面が想像できて、俺は気分が重くなった。俺のためにハルヒが。 ふと、「ああ、悲しいんだな」と気づいた。 俺はMDデッキの再生ボタンに手をかけた。 ゆっくりと、当時には掠れてしまっていたハルヒの、それでもどこか優しい、あの声が流れ出した。 ●第三部 ハルヒの声が止み、MDプレイヤーは耳につく機械的な音で止まった。 俺は涙をぬぐうことをすっかり忘れていて、頬がうすら涼しくも感じるほどだった。 灰色に腫れてむくんだ空から数多の雨粒が落ち、窓に当たって騒いでいる。 その音だけが充満して息苦しい部屋で、俺はさめざめと泣いた。 次の日も雨だったが、かまわず俺はハルヒの墓参りに向かった。 なかなか大きい墓だった。墓標には「涼宮ハルヒ」の文字が燦然と輝いてやがる。 立派なもんだ。金持ちだったからな、あいつは。 俺はお前に渡すものがある。笑わずに受け取ってくれ。頼む。 俺は、昨夜一晩かけて捻り出した思いを綴った手紙を墓前に添え、その場を後にした。 生活は変わっていった。俺も朝比奈さんも長門もいつしか勉強を始め、三人そろって同じ大学に入学した。 やはりみんな、このままの生活を続けるのはいけないと感じていたのだろう。 大学生活も俺たちは存分に楽しんだ。が、恋愛だけはしなかった。 卒業後、それぞれが別の仕事についたが、帰る家は同じだ。いつも長門の作る料理の匂いは俺たちを待っている。 俺は小説家になり、朝比奈さんはモデルになった。長門は専業主婦だ。 なかなかお似合いだろ? 朝比奈さんなんか写真集まで出して、タレント、女優もやってやがる。 俺はといえば小説家だ。何本か書店に並んでるぜ。新進気鋭の売れっ子だよ。 長門は料理の腕をめきめき上げて、家事全般をこなせるいい嫁になった。 だが、俺たちは俺たちの中ですごしていった。結婚するわけじゃない。俺たちはおそらく一生このままだと思う。 このままでいいと思った。そう願った。 せっかく願ってやってんだから、ハルヒ、お前俺たちの願いをかなえてくれ。お前なら簡単だろう? だからさ、頼んだぜ? なあ神様。 ●Per sempre 暗くもなく、明るくもない。 窓を隔てた灰色から漏れる光が、この部屋の唯一の光源だ。 俺はそっと瞼を閉じる。瞳に映る黒、黒、黒。 いや――そうか。瞳の裏には、いつだってその笑顔があった。 忘れたことはない。この50年のうちに起こった幾多の出来事、そのいつだって俺は目を瞑り、その笑顔を思い出していた。 忘れたことはない。共にすごした二人が先に逝ってしまったときも。 忘れたことはない。俺一人、明かりのない部屋の中で静かに聴く雨音……いつだってその笑顔は俺の中にいた。 MDデッキを持ち出す。お前も、よくがんばってくれた。再生ボタンに手をかけ、目を瞑る。 やがて声が流れ出し、俺は深い哀感に駆られるだけ―― 「キョン、聴いてるかしら? 聴いてなかったらぶん殴るわよ! ……聴いてるわね? あたしはたぶん……たぶんそのときには死んでると思うわ。ま、まあ、生きてたら物凄い恥ずかしいけどね! そのときは知らないフリをしてね? しなさいよ絶対! それからキョン以外の人が聴いてたら……今すぐ止めなさい! 団長命令よ! ……ごほん。ええと……そう……キョン。キョンには、伝えなきゃならないことがあるわ。 ううん……あたし……ね、キョンのことが……好きだった。たまらなく好きだったの。今更だけどさ。 あんたが一緒にSOS団を作ってくれたとき、あたしすごい嬉しかった。 まあ、強引にあんたを連れ込んだってのもあるけどね。そこは気にしなくていいわ。 あんたと過ごす一日一日が、あたしは……げほげほっ……ごほっ……ごめん。あたしは……ああもう、何をしゃべったらいいのかしらね? あたし……キョンと出会えて良かった。キョンだけじゃない、有希やみくるちゃんや古泉君とかと出会えて良かった。 でもね、キョン、あたしはやっぱりキョンが一番好きだった。気づいてた? ずっと好きだったの。どうしようもないくらいに。 でも……断られたらどうしようって……あたし、こう見えて臆病なんだ……あ、今笑ったでしょ! 笑うな! ……だから、今言うわ。キョン……愛してる。あ……ごめんね、こんな形で。あたし、メールとか電話で告白する人嫌いなんだけど、まあMDで告白する人はいないだろうから大目に見なさい! ……ごめんね、キョン……死にたくないよ……あたし、まだキョンと一緒にいたい。たくさん遊びたかったし、遊ばなくてもいいからずっとキョンと一緒にいたかった。 この際だから言うけど……あたし、前にキョンと校庭で、その……キスする夢を見たことがあるの。ば、馬鹿にしないでよね! ……嬉しかったんだから。 あの朝、キョンがあたしの髪型を『似合ってるぞ』って言ってくれた時、あたし泣きそうだった。嬉しくて仕方なかったの。 あたし……だめ……涙が止まらないよ……好き……キョン…… ……ぐす………………すん…………………… ……でもね、あたし、幸せ者だわ……キョンが好きなままで死ねる。 幸せ者のままで死ねるから、幸せ者だわ…………ごほっげほっ………… …………キョン、もうさよならだわ……キョン、あたしのこと忘れないでいてくれる? 10年経って20年経って、お爺さんになっても。ずっとあたしを覚えていてね……。 キョン、大好き。じゃあね……」 耳に障る機械音でMDは静かに、止まった。 さよなら。忘れない。
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/3571.html
さて、今現在俺はとある病院のベッドに寝ている。 左腕と左足はガッチリとギプスで固められており、当たり前だが全く動かせない。ある意味左半身不随である。 と、ここまで表現すればもう俺が左腕と左足の骨を折ってしまったということは理解していただけるだろう。 とりあえずここまでの経緯を簡単に説明することにする。 事の始まりはハルヒが階段で足を滑らせたことだった。 ハルヒより数段下にいた俺はハルヒの悲鳴に驚いて後ろを見た瞬間に足をすくわれ、 そしてハルヒもろとも下の階まで転がり落ち、気付けば腕と足がポッキリと逝っていたというわけさ。 そりゃまあ、怒りの感情も少しは湧き出てきたが、あのハルヒに泣いて謝られたら誰だって許さざるを得ないだろう。 ただ、ハルヒも右足を折ってしまい、同じ病院に入院している。いや、同じ病院と言うと範囲が広すぎるだろうか。 「ねぇキョン、暇なんだけど、なんかおもしろいことない?」 何故か同じ”病室”の隣りのベッドにいるわけだからな。 ~キョンとハルヒの入院生活~ 不定期保守連載始まるよー\(^o^)/ *** 「ところでさ、あたしたちが一緒の病室にいるのっておかしくない?」 そう言われてみるとそうだよな。 「男女を同じ病室に入れておくなんて普通じゃ考えられないわ。この病院PTAに目つけられるわよ」 PTAはどうか知らんが普通じゃないってのには同意見だ。とりあえずナースコールでもして抗議するか。 「えっ・・・・・・ちょっちょっと待って!」 どうした?お前だって俺なんかと一緒の部屋に入ってるのは嫌だろ。 「えっと、あのー、うーんとわざわざナースコールしてまで部屋分けなくてもなーって」 じゃあ次に誰か来たら言うか。 「いやいいの!別にこのままでいいから!キョンも言うのめんどくさいでしょ」 別にめんどくさくは・・・・・・ 「だーかーら!このままでいいって言ってんの!」 結局ハルヒのよくわからない意見に強引に賛同させられることとなった。やれやれ。 キョンとハルヒの入院生活保守 *** 「きつね」「ねこ」「古泉」「人の名前もいいの?みくる」「ルーマニア」 さてハルヒが暇だ暇だとうるさいので定番のしりとりをやっているわけである。 「アジア」「アイス」「ス?・・・・・・ス・・・す・・・」 スは悩む所じゃないだろ。スイカでも酢昆布でもなんでもあるだろうに。 「す・・・・・・す・・・・・・すき・・・・・・」 あ、悪い、聞こえなかった。 「・・・・・・スキー!スキーって言ったの!」 急に大声を出されて驚いた。ハルヒ、聞き取れなかったのは悪かったが、何もそんなに怒らなくても。 「いいから早く次!」 あー、この場合キなのかイなのかどっちなんだ? 「あーもう!バカキョン!飽きた!寝る!」 いや、まだ夕方の5時なんですけど・・・・・・ キョンとハルヒの入院生活保守 *** 本当に5時から寝てしまったハルヒは案の定夜中に眠れないとか言い始めた。 そして結局またしりとりをやっているのである。もう就寝時間は過ぎてるし寝たいんだが・・・・・・ 「タンス」「スイカ」「傘」「酒」 「け」か・・・・・・うーんなんだろうな。眠いから頭がちゃんと働いていないな。 「・・・・・・そうだなハルヒ、『結婚しよう』でどうだ。」 「え?ちょっちょっとキョン、いきなりなに言うのよ!」 「本気だぞ?」 「・・・・・・」 「ほらしりとりの続きだ。『う』からな。」 「・・・・・・『うん』・・・・・・」 「『ん』が付いたぞ。俺の勝ちだ。言ったもん勝ちってとこだな」 「・・・・・・負けたわよ。キョンの優しさにね」 ・・・・・・毛糸。ほら『と』だハルヒ。・・・・・・ハルヒ? 見ると、さっきまで眠れん暇だと騒いでいた団長様がすやすやと寝息を立てているではないか。 しかもどんな夢を見ているのか知らんが、ニヤニヤと笑いつつ涙を流して寝るという曲芸を披露している。 まったく、わがままなお姫様だこと。 おやすみ、ハルヒ。 キョンとハルヒの入院生活保守 *** さっきからハルヒのベッドから聞こえてくるカチャカチャという音は、さっき古泉が持ってきた ルービックキューブの音である。確かに暇つぶしには丁度いいだろう。他人に迷惑をかけないしな。 たまには褒めてやろうじゃないか。グッジョブ古泉。 ・・・・・・まさか1時間やって1面もできないとは思わなかったが。 こりゃ相当イライラしてるな。古泉も計算外だっただろう。・・・・・・閉鎖空間が発生してないといいが。 しょうがない。実はルービックキューブを40秒で6面完成させられる俺が助け舟を出してやろう。 どうやら1面のうち8つは揃っているようだ。こうなりゃ後は簡単だな。 ハルヒ、まずはその右の面を奥に回すんだ。 「・・・・・・」 お、回した。今日はやけに素直だな。じゃあ次は前後の真ん中の奴を右に回す。 で、さっきどかした奴をそこに入れて、あとは戻せば 「できたー!!!!! キョン、ありがと!」 今一瞬ドキッとしたのはハルヒの反応が思ったのと違ったからだぞ。 間違ってもその100Wの笑顔にときめいたわけじゃないからな。 「・・・・・・ねえ、キョンってもしかしてこれ得意?」 ああ、実は得意なんだなこれが。 「・・・・・・だったらもっと早く教えてくれたっていいじゃない・・・・・・」 すまんな。また詰まったら言ってくれよ。 「今日はこれはもういいわ。なんかおもしろいことない?」 やれやれ、結局俺が話し相手になるのか。 キョンとハルヒの入院生活保守 *** 次の日、どうにか片手でルービックキューブができないだろうかと思っていると谷口がやってきた。 来なくていいのに。 「お前せっかく人が心配して来てやったというのにそれはないだろ」 冗談だ冗談。 しばらく3人で適当に世間話をした後、谷口は俺に耳打ちしてきた。 「ところでお前アッチのほうはどうなってる?」 アッチ? 「そろそろ溜まってきた頃じゃねえか?」 溜まる?ああストレスか。 別に溜まってはいない。ハルヒが相手してくれるしな。 「・・・・・・お前、今何と言った?」 いやだからハルヒが相手してくれてるから問題ない、と。 「お前らいつの間にそこまで・・・・・・しかも病院で・・・・・・ナントカ病棟みたいな名前のゲームのやりすぎじゃねえのか?」 何のことだ。 「ちょっと涼宮にも話聞くわ・・・・・・」 と、谷口は向こうのベッドに近づいた。なにやらボソボソと話しているのが聞こえる。 「はあ!?アンタバカじゃないの!?」 「あっちょっと痛い痛いちょっやめルービックキューブは痛いってやめろって角は危ないって」 ガンガンという音が生々しい。 「ちょっとバカキョン!谷口に何喋ったのよ!」 そもそも俺はたいしたことは話していない。谷口はどんな勘違いをしたんだ? ハルヒは顔真っ赤だしさ。 谷口がこぶだらけになって帰ったあと、俺はトマトのように真っ赤になって怒っているハルヒを眺めつつ、 無残にもバラバラになってしまったルービックキューブをどうやって修復しようかと考えていた。 キョンとハルヒの入院生活保守 *** 「どうもこんにちは。元気にしてるかな」 今日はなんかどっかで見たような気がする男がノートパソコンを抱えて来た。 「アンタ誰だっけ?どっかで見たことあるんだけど」 「コンピ研の新部長になった者でして」 ああ、どうりで見たことあるわけだ。なんだかんだで関わりはあったからな。 「で、コンピ研があたしたちに何の用?」 「そ、そんな怒らないでくれよ。暇してるって言うからこれを持ってきてあげたんだ」 そう言うと、新部長殿は持っていたノートパソコンを一台ずつベッドの横の棚に置いた。 「長門さん直々に頼まれちゃこっちも断れなくて。あとこの病院無線LAN付いてるらしいね、珍しい」 「有希が?ふーん・・・・・・まあ、アンタもSOS団コンピ研支部のメンバーなんだからね。 これからも団長に気を遣うようにね」 こらハルヒ、また先輩に向かってそんな態度で・・・・・・いやなんかもう本当すいません。 「いや、いいんだよ。もう慣れたからね。でも本当に素直じゃないね、君の彼女」 場の空気が凍った。 「なななななんであたしがキョンなんかの彼女なのよ!!!」 「えってっきりそうだとばかり」 「この!オタク!オタク!」 「いやオタクは否定しないけど、痛っ痛いなんだこれ!?」 それはバラバラになったルービックキューブです。片付けるのは俺です。 「こここここはひとまずたいさーん」 最後まですいません。今度謝らせます。 ハルヒもそんな顔真っ赤にして怒らなくてもいいじゃないか。 「・・・・・・バカキョン」 何がだ。 キョンとハルヒの入院生活保守 *** 今日は俺とハルヒが入院してから最初の土曜日である。自分がこんな状況にあるにも関わらず当たり前のように SOS団を招集するハルヒはどういう思考をしているのであろうか。たまにはメンバーを休ませるなり 自分も休んだりすればいいものを。 まあいいか。古泉と話したいこともあったしな。 「んーなにこれ?ウォーリーを探さないで?」 「あのキャラを探すゲームですか?やってみましょうよ」 とりあえず女子3人組をパソコンで遊ばせてる間に古泉とこっそり話すことにした。 「この状況では電話でも込み入ったことは話せませんしね。メールも危険ですし」 そうだな。さて本題だが、気になることが一つある。 「なんでしょう」 ハルヒの骨折は例の能力で治ったりしないのか? 「ああ、そのことですか。きっと彼女が望めばすぐにでも治ると思いますよ」 じゃあ何で治ってないんだ、おかしいだろう。 「理由は至極簡単なものですよ。つまり彼女はそれを望んでいないのです」 ・・・・・・もうハルヒの思考について考えるのをやめていいか?まったくついて行けん。 「いい加減にあなたにもわかっていただきたいものですね。ちなみに僕や機関のほとんどのメンバーの予想は あなたが退院すると同時に彼女も退院するというものですが、どうでしょう?」 いやどうでしょうと言われても。どこにその根拠があるのかわからん。 「まったく、あなたらs「っひゃああああああああああ!!!!!!」 突然のハルヒの悲鳴に驚きつつ女子3人組の方を見てみると、相当動揺している様子のハルヒと、 普段と変わらずポーカーフェイスの長門と、・・・・・・そんなハルヒを見て微笑んでいる朝比奈さんがいた。 「・・・・・・な、なによこれ・・・・・・」 「涼宮さんって思ったより怖がりなんですね。ふふふ」 ・・・・・・何があったんだろうか。 キョンとハルヒの入院生活保守with若干黒いみくる 「・・・・・・わたしだけセリフがなかったのでここで言う。『ウォーリーを探さないで』を見るのは危険。気をつけて」 *** 「ほら、これもおもしろそうですよー。見ましょうよー」 「いや、あのねみくるちゃん、そういうのはもういいから、ね?ギャーとか、ね?」 「じゃあ・・・・・・あ、この『信じようと、信じまいと―』っていうの面白そうですね」 「ねえ、なんかそれ怪しくない?ねえってば」 珍しくハルヒが朝比奈さんに主導権を握られている。なんだろう、日頃の復讐だろうか。 「これはちょっと・・・・・・反応に困りますね」 閉鎖空間が出なきゃいいがな。 朝比奈ミクルの復讐~Episode00はかなりの時間続き、その結果ここには相当やつれたハルヒがいる。 結局閉鎖空間が出てしまったらしい。・・・・・・今回は俺は関係ないよな? ちなみに正気に戻った朝比奈さんは謝ってそそくさと帰っていった。まあハルヒにもたまにはいい薬だろ。 その日の夜中のことである。 「ねえキョン、怖い話してあげよっか」 んー?もう俺は眠いんだが。まあ話したければ勝手に話せ。 その後ハルヒは朝比奈さんに無理矢理読ませられたと思われる数々の話を俺に聞かせた。 「どう、怖いでしょ?」 話し手が声震わせてどうする。あと俺はそういうのには耐性あるからまず効かないな。じゃ、俺は寝るぞ。 「えっ・・・・・・」 それともなんだ。まさか怖くて寝れないとかそんなんじゃないだろ? 「・・・・・・っ!そっそんなわけないでしょバカキョン!あたしも寝るから!別に構わなくてもいいからね!」 図星だったようだ。 キョンとハルヒの入院生活保守with若干黒いみくる 「・・・・・・『信じようと、信じまいと―』は怖い話が苦手な人には推奨しない。気をつけて」 *** 「すーすー」 そんなわかりやすい狸寝入りしなくても。ハルヒ、怖いなら別に無理しなくてもいいんだぞ? 返事が無い。ハルヒー、ハルヒさーん、ハールヒさーん、ハルハルー。 「・・・・・・」 ・・・・・・逃げろ!ベッドの下に刃物を持った男が! 「ふぇっ!?きゃっ!!」 飛び起きた反動でハルヒはベッドから落ちてしまった。やはりあの話も読んでたか。てかやりすぎたか。 「・・・・・・誰もいないじゃないのバカキョン・・・・・・いや嘘だってのはわかってた、わかってたのよ」 ハルヒは起き上がると俺をキッと睨んだ。いや暗いから見えないんだけどこうなんというか眼光を感じるんだ。 こりゃ相当怒ってるだろう。ハルヒを怒らせると後が怖いからな・・・・・・謝っておこうか。 ハルヒ、なんというかその、スマン。 「いい」 そんな無愛想な返事しないで・・・・・・えーとハルヒさん?あなたのベッドはこっちじゃなくてあっちですよ? 「べ、別にいいじゃない、あんたは黙って寝てりゃいいのよ」 そう言うとハルヒは俺のベッドに潜りこんできた。そのため俺は反射的にハルヒの分のスペースを空けるように 左に寄ってしまった。なんとまあ流されやすいことだろう。 狭いベッドに完全に二人が乗っかった状態になると、ハルヒは向こうの方を向いてしまった。本当にハルヒの行動は よくわからんが、今俺の右手をハルヒが左手でしっかりと握っているため、もう逃げられないということだけはわかる。 俺のベッドに入ってからすぐに、ハルヒは狸寝入りではない寝息を立て始めた。 逆にこの状況だと俺が寝るに寝られないわけだが・・・・・・やれやれ。 キョンとハルヒの入院生活保守 *** 結局一睡もできなかった。 急に寝返り打って顔が近いとか寝息が顔にかかるとか抱きついてくるとか寝息がかかるとか顔が近いとかかかるとか とにかくそんな状況に置かれて冷静に寝られるほど俺は人間(男?)ができていなかったということだ。 さて朝6時。そろそろハルヒを戻さないと看護士さんが来ていろいろアレなことになるから起こそう、うん。 ハールーヒー起きろー。 「・・・・・・うん・・・・・・うーん・・・あ、おはよ」 やあおはよう。すがすがしい朝だね。俺は睡眠不足で倒れそうだよ。 「ねえねえ、んー」 何だそれは。 「おはようのキス」 夢の相手が誰かは知らんが目を覚ませ。 俺はいつかの消失騒動の時のようにハルヒの頬をつねってやった。 「むぐ・・・・・・う・・・・・・え!? きゃっ!」 ようやく起きたか。ハルヒは一度ベッドから落ちそうになったがなんとか立て直した。 「えーっと・・・・・・えー・・・あー・・・・・・なんで・・・・・・キョンの・・・・・・?」 混乱してるようだ。いや昨日お前から入ってきたんだろうが。 「嘘!?・・・・・・あー・・・・・・あー!」 思い出したか。あとそれからな、夢の中でもおはようのキスはないだろ。 「え!?え!?あたしなんか言ってた!?」 そりゃあもうな、どんな夢かは知らんが現実では俺にねだってたぞ。 「うああああああああバカバカあたしのバカ」 ハルヒは顔を真っ赤にして騒ぎながら自分のベッドに飛び込んでいった。片足折ってるのになんという機動力だろう。 とりあえず何とかハルヒを引き離すことには成功したから俺は一眠りしよう。おやすみ。 キョンとハルヒの入院生活保守 *** そして昼の12時頃俺は起きた。 「あ、キョン起きた?ところで何でそんなに寝てるの?」 いやお前が昨日俺のベッドに入ってきたからだよ。 「・・・・・・ふふーん、あたしがそばにいるからドキドキしちゃって眠れなかったんだ?」 認めたくはないがそういうことになるんじゃなかろうか。 「結構ウブなのね」 うるせーやい。てかお前も話してて顔赤くなってるじゃねえか。 「べ、別に赤くなってなんかないわよ!」 おはようのキス。 「うああああああああ」 キョンとハルヒの入院生活保守 *** 「ところでキョンってこの前のテストどんなだったっけ?」 急に俺の古傷を掘り返すようなこと言うな。特に話すことはない。 「戦わなきゃ現実と」 ・・・・・・わかったよ。8教科で*72点だ。(本人の名誉のため一部を伏せています) 「・・・・・・あんたどこの大学入るつもりなのよ・・・・・・しかもこの大切な時期なのに学校休んでるし」 休んでるのはお前が原因だろうが。 「・・・・・・ごめん・・・」 しまった、と思った時にはもう遅く、この病室内にはなんとも居心地の悪い空気が充満していた。 なんとかこの状況を打破する画期的な一言を考えようとするも、慣れてないからか全く思いつかない。 こんなとき古泉がいれば何とかしてくれるんだよな。初めてあいつを頼りたいと思ったよ。 しかし先に口を開いたのはハルヒだった。 「・・・・・・じゃあさ、きっとあたしの方が早く退院するから、そのあと毎日来てキョンに勉強教えてあげる」 え? いやいいよ、大変だろ? 「成績上げないととどこの大学にも入れないで落ちぶれちゃうわ。だからあたしが伸ばしてあげる。決まりね!」 聞いてないようだ。しかし空気は戻ったのでまあいいか。古泉がハルヒと俺の退院は同時とか言ってたしな。 次の日にはハルヒの右足は完治し、その日のうちにハルヒは退院した。なんてこったい。 キョンとハルヒの入院生活保守(ハルヒの入院は終わり) *** 今日はハルヒが学校に行ったのだろう。古泉からすぐに電話が掛かってきた。 『何かあったんですか? 機関はまるで大騒ぎですよ』 いや、一応心当たりはあるんだが・・・・・・ 『教えてください。授業が始まるまでに』 えーと、一昨日ハルヒが俺が成績悪いから退院したら勉強教えてあげるとか言ってたんだ。 『なるほど。ありがとうございます。全て納得しました』 え?納得できたのか? 『やはりあなたはわかっていないようですね。すいません時間がないので。ではまた』 切れた。・・・・・・なんだってんだもう。 キョンの入院生活保守 *** その日の夕方ハルヒは律儀にもやってきた。来なくていいのに・・・・・・とは言わないが。 「毎日来るって言ったでしょ」 そこまで俺の成績悪いことが気に入らないか? 「気に入らないっていうか・・・・・・あんたの将来を考えてあげてるのよ」 将来って、例えば? 「だから・・・・・・成績悪いとろくな大学入れないでしょ? そしたらまともな会社に就職できないじゃない? そしたら稼ぎが少なくなってあたしが――あたしじゃない、あんたの将来の嫁さんが大変じゃない」 嫁?まさか俺に嫁ぎたいなんて思ってる奴いないだろうよ。 「・・・・・・きっといるわよ、あんたを好きになる人」 そうかい、じゃあ現れるまで気長に待つとしますか。 「・・・・・・バカキョン」 はいはいバカですよー平均点*4点ですよー。 「そういうのじゃなくてね・・・・・・」 バカキョンの入院生活とハルヒのお見舞い保守 *** 「どうせあんたは忘れてるだろうから1年の内容から復習ね」 へいへい。・・・・・・えーと、シン60度「サイン」サイン60度が・・・・・・えー・・・・・・ 「・・・・・・わかんないの?」 はい。 「お母様、ハルヒは課せられた使命を遂げることができません、お許しくださいませ」 なんかほんとごめん。 その後のハルヒのスパルタ指導により俺はなんとか三角比を思い出した。 「むしろこれで*4点も取れてたことが凄いわよ」 取れてないぞ。現代文で稼いでたから数学はIIとB合わせて2*点だったな。 「・・・・・・あたしが養うしかないのかなぁ・・・・・・」 バカキョン(学力的な意味で)の入院生活とハルヒの熱血指導保守 *** さらに2時間にも及ぶマンツーマン(男女間でもこれでいいのか?)レッスンにより、何とか中学卒業レベルの 数学を思い出すことができた。これだけ頭使ったのは受験シーズン以来だぜ。 ・・・・・・ってハルヒ、何やってるんだ。 「ギプスに落書きしてんの。定番でしょ」 見ると、よくわからん絵やらSOS団エンブレムやら「私はバカです」やら「平均点*4点」やら書いてある。やめろ。 「足の裏にも書いてあげる。見えないでしょ?」 見えないな。てかやめろ。 「よしっと。じゃ、あたし帰るからね。明日も来るから覚悟しときなさい!」 完全に聞く耳持たずモードに突入した団長様は嵐が過ぎ去るかのように去っていった。やれやれ。 なぜかその後谷口が来た。来なくていいのに。 「その性格何とかしろよお前」 悪い。昔からなんだ。 「とにかく俺はお前らがあれだけ一緒にいたのに少しも進展してなかったのが気になって・・・・・・」 谷口はさっきハルヒが何かを描いたであろう足の裏を見て固まった。 「・・・・・・なんだよしっかり進んでるじゃねえか。あー心配して損したぜ。お前ももう少し鈍感じゃなければな」 何の話だ。お前よりは鈍感じゃないだろう。 「いや、確実にお前の方が鈍感だ。神に誓ってな。俺は気付いてるがお前は気付いてないのが立派な証拠だ」 そう言うとその絵を携帯で撮って帰っていった。あ、病院なのに携帯オフにしてないじゃんあいつ。 ・・・・・・気付く気付かないって、一体何の話だ? そのあと看護士さんにもやたらニコニコされるし、ハルヒは一体何を描いたんだろう。 キョンの入院生活とハルヒの見舞いwith谷口保守 *** 「おはよう、キョンの様子どうだった?」 「どうだったも何も、これ見てくれよ。きっと涼宮が描いたんだ」 「・・・・・・確実に進展してるんじゃない?これ」 「そう思うだろ?でもキョンの野郎が鈍すぎて結局何も進んでないんだよな」 「涼宮さんもかわいそうだね」 「なーに、そのうち涼宮が折れるさ」 「そしたらくっつくね」 「ああああああああうぜええええええええええええ」 「落ち着きなよ谷口にもいつか春は来るよ正直同意見だけど」 キョンの入院生活とハルヒの見舞い保守~谷口と国木田編~ *** 「ハルヒちゃん、今日もキョンくんのお見舞い?」 「あ、はい、あのバカキョンに勉強教えてやらないといけなくて」 「女の勘だけど、きっとあの子にはハッキリ言ってあげないとわかってくれないと思うのよ。 遠まわしに言っても伝わらないというか」 「え?」 「こんなにかわいいんだからもっと自信を持って言っちゃいなさい。はい、ファイト!」 「あっ、えっ?は、はい」 ハルヒは病室に入ってくるなり、足の裏の絵?を黒く塗りつぶし始めた。 「そうよねー、看護婦さんは普通に見れるわよねー、不覚だったわ」 何かぶつぶつ言っている。確かに見てたぞ。そのあと俺の顔を見てニコニコしてたが。あと今は看護士な。 なぜか学校でハルヒにボコボコにされる谷口、という情景が浮かんできたので谷口のことは言わないでおこう。 それくらい人を労わる気持ちは俺にもあるのさ。前回も俺の勘違い?のせいでボコボコだったしな。 「自信を持って・・・・・・自信・・・・・・」 まだ何か言っている。気色悪いぞ。 「キョン」 と思っていた矢先、ハルヒは意を決したように俺の方を向いた。 何だ。 「んー・・・・・・うー・・・・・・」 だんだん顔が赤くなってきた。熱でもあるのだろうか。 「ああダメ!言えない!言えないって!」 何が言えないのかは知らんがそこはもうお前のベッドじゃないんだから暴れるのはよしなさい。 キョンの入院生活とハルヒの見舞い保守 *** 「じゃあ今日は古典ね。予習してた?」 全然。 「ペナルティで一発ビンタね」 聞いてないぞ。 ハルヒが腕を振り上げたので俺は思わず目を閉じた。 叩かれると思ったがいつまで経っても打撃がこない。目を開けてみると顔の横数cmのところで手が止まっている。 「・・・・・・手が動かない」 はい? 「叩けない」 ・・・・・・お前らしくないぞ?コンピ研の部長にドロップキック食らわしたお前はどこ行った? 「っ・・・・・・もういいわ!古典古典!」 何だったんだ。 キョンの入院生活とハルヒの見舞い保守 *** 「そうね、この小テストで高得点出したらご褒美あげるとかしたらあんたもやる気出るかしらね」 出るかもな。 「えーと・・・・・・じゃあ8割以上であたしがほっぺにキ、キスしてあげるとか!」 じゃあそれで頼む。 「えっ!?ちょっと・・・・・・いいの?じゃなくて、突っ込みなさいよ!」 あいにく今は突っ込む気力が無い。というか自分の冗談で自分で照れるな。 「いやだってまさか肯定されるなんて・・・・・・」 それにどうせ8割なんて取れるわけないんだから変わらん。 「・・・・・・じゃあ3割以下で罰ゲームでキス・・・・・・」 うん、まあそれならほぼ確実だろうが・・・・・・なんかお前にメリットあるか? 「・・・いやだから突っ込みなさいよ・・・・・・」 だから照れるなら言うなって。 キョンの入院生活とハルヒの見舞い保守 *** 「涼宮!キョンが大変だ!」 「えっ!?本当!?」 「今電話が掛かってきて・・・・・・容態が急変してちゅうちゅ、集中治療室に運び込まれたって」 「・・・・・・あたし行ってくる!」 「え?あ、ちょっと」 「どうしよう国木田、涼宮の奴冗談本気にして授業ほっぽらかして行っちゃったぜ」 「流石に言って良い冗談と悪い冗談があると思うよ。噛んでたし」 「キョンにメールしとかないとな・・・・・・」 キョンの入院生活とハルヒの見舞いと谷口氏ね保守 *** ん?谷口からメールだ。 『今から行く奴に「全部冗談だった」と伝えてくれ(^o^)/~~ 後は頼んだm(_ _)m 俺の命はお前に懸かっている(^ー゚)b』 顔文字がうざい。 「キョン!!!・・・・・・え?え?」 うわビックリした。ってハルヒ、授業はどうしたんだ。 「え・・・・・・だって容態が・・・集中治療室・・・・・・って谷口が・・・」 ああ、そういうことか。とりあえずこのメールを見てくれ。顔文字うざいが。 「・・・・・・冗談・・・・・・はあぁ」 するとハルヒは俺のベッドに力が抜けたようにもたれてしまった。 「わざわざこの寒い中この格好のまま走ってきたのに・・・・・・授業もサボっちゃったし」 そりゃご苦労さんだったな。でも俺を心配してくれてたってことだろ?ありがとうな。 「・・・・・・でも逆に嘘で良かったわ。本当にキョンが死にかけてたら大変だし」 そうそう、お前はそういう前向きな考えが似合ってるぞ。ところで授業はいいのか? 「・・・もう学校に帰るわ。あたしが大学行けなくなったら本末転倒だしね。谷口もボコボコにしてやらないと」 あ、ごめん谷口。お前の命守れそうにないや。自業自得だけど。 「・・・・・・キョンは急にいなくなったりしないわよね」 帰り際にこんなことをを訊いてきた。 まあ、そう簡単にぽっくり逝ったりはしないだろうよ。俺みたいな幸の薄い人間は長生きするものさ。 「・・・・・・そうよね、ありがと。また学校が終わったら来るわ」 キョンの入院生活とハルヒの見舞い保守 *** 「こぉんのバカ!!!」 「うおわっ!!」 「あんたのせいで授業サボっちゃったじゃないの!!」 「いやだっていくらキョンが重体でも授業を抜けるのはないだろうよ」 榊「いや、あの状況は行くだろ」 阪中「行くのね」 由良「行きますよね」 山根「行くだろ・・・・・・常識的に考えて」 ~中略~ 岡部「あれは行かない方がおかしい」 「29対1で谷口の負けだね」 「というわけで責任持ってボコボコになりなさい」 「アッー!」 自業自得谷口保守 *** さて、と。今日は物理だったか?少しは予習しておかないと。 ・・・・・・点数が悪かったときのハルヒのこれ以上ないくらいの悲しそうな顔を見たくないしな。 なぜ俺のためにそんな悲しむのかはわからんが。 「キョン!ちゃんと予習して・・・・・・してる・・・・・・?」 なんだそのUFOを見るような目は。俺が勉強してるのがそんなに珍しいか。 「も、もちろんいいことよ。やる気出してくれたみたいでうれしいわ!じゃ、小テストね」 「予習しても結局これなのね」 お許しください団長様。 「こんなんでT大行けると思ってるの?」 いや行けませ・・・・・・T大?T大と言ったか?俺にそんな大学行けるわけが・・・・・・ 「あたしが行くんだからあんたも行くのよ!そうじゃなきゃSOS団がバラバラになっちゃうじゃない!」 お前T大行く気だったのか。いやそれでも俺は無理だし朝比奈さんは・・・・・・ 「あら、みくるちゃんもT大行くのよ。鶴屋さんと一緒に」 マジですか。 「マジよ」 そういや最近来ないことが多かったような・・・・・・長門はまあいいとしてやはり古泉も? 「そうよ」 あれ?もしかしてSOS団って勤勉クラブ? キョンの入院生活とハルヒの見舞い保守 *** そういや明日には腕のギプス取れるってさ。 「ほんと!?良かったじゃない!」 この調子で行けばもうじき退院できるだろ。 「・・・・・・ごめんねキョン、あたしのせいで・・・・・・」 だからそれはもう十分謝ってもらったからいいって。それよりも俺は元気なハルヒが見たい。 「え?」 おっと、要らないことまで口走ってしまった。気にするな、お前はいつでも十分輝いてるからそれでいい。 「え?え?」 あれ?何で俺こんなことを? 今日のテンションはなんかおかしいな。何だろう、T大のショックか? 「わかったわ!これからもずっと責任持って輝いてあげるから感謝しなさい!」 まあ、ハルヒの機嫌がいいみたいだし何でもいいか。 キョンの入院生活もそろそろ終わり保守(ぶっちゃけ骨折がどのくらいで治るのかわからない) *** 「・・・・・・」 久々にハルヒはルービックキューブを回している。とは言っても完成させるためではなく、ひたすら崩すためだ。 俺の両手が自由になったから実力を見せろ、ということらしい。 いくらやっても大して違いは無いのに、ハルヒはこれでもかと言うくらい崩している。まあ、満足するまでやればいいさ。 「・・・・・・もういいかしらね」 はいはいっと。 「5分でできたら褒めてあげるわ」 そりゃまた結構な余裕があるな。はいスタート。 はい完成。今日は調子良かった。 「はやっ! 32秒って・・・・・・」 世界レベルだと10秒台とかザラだぞ。 「1面に苦労してたあたしって一体・・・・・・」 それより褒めてくれないのか? 「え?あー、うん、えーっとね・・・・・・」 どうやら5分でできるわけがないと思っていたらしく、褒め言葉を賢明に探しているようだ。 「・・・・・・うーん、惚れそうになった?・・・・・・違う違う違う!」 勝手に一人突っ込みを始めた。ルービックキューブで惚れられてもねえ。 「ま、まああんたにしては上出来じゃない!?」 そんなもんだろうと思ったよ。 キョンの入院生活とハルヒの見舞い保守 *** 「・・・・・・へっくし!・・・・・・うー」 おいどうした?風邪か? 「昨日のアレで体冷しちゃって・・・・・・スカートがこんな短いのが悪いのよ」 最近寒いもんな。しかし女子は大変だよな、こんな寒いのにスカート穿かなくちゃいけないし。 「女は辛いのよ。というわけで布団を貸しなさい。足が冷えてるの」 嫌だ。俺だって寒い。 「じゃあこ、こっちから行くわよ」 そう言うとハルヒはいつかのように勝手にベッドに潜りこんできた。またか・・・・・・ その瞬間である。 「キョンくーん、おみまいだよー!あっハルにゃん!」 「あ」 あ。 「い、妹ちゃん!これはね?違うの、だからね?寒かっただけなのよ!わかる?寒くてね」 「あたしもはいるー!」 言うまでも無く俺は妹のボディプレスを食らった。 現在俺のベッドは3人がひしめくというなんとも定員オーバーな状況にある。 実際妹だけで良かった。親も来てたら何言われるかわからないしな。 「ねえハルにゃんはリンゴのかわむけるー?」 「もちろんよ。女ならできなくちゃダメよ」 「やってやってー」 ハルヒの皮むきは相当上手かった。きっといい嫁さんになれるよ。 「なんとなく素直に喜べないのよね」 なんでだよ。 キョンの入院生活とハルヒと妹の見舞い保守 *** そんなこんなありつつもようやく足のギプスを外して退院できる日がやってきた。 それにしてもあの電動ノコギリは怖いな。いつかテレビで新型のカッターが開発されたとか見たが・・・・・・ 足の裏の絵の解読を試みるもしっかりと塗りつぶされていて無理だった。永遠の謎となったか。 「キョン!退院おめでと!」 お、迎えにきてくれたのか。ありがとな。 「さ、行くわよ」 どこにだ。 「学校よ、学校。今日もSOS団の活動はあるのよ!」 まさかこの病み上がりの身体であの坂を登れと? 「いいから文句言わずについてきなさい!」 やれやれ。 キョンの退院とハルヒのお迎え保守 *** 入院で衰えた足で坂を登るのは流石に堪えたが、なんとか部室まで這ってたどり着いた。 「はい、入りなさい!」 勧められるがままに俺はドアを開けた。そこで俺が見たものとは! 「「「「「退院おめでとー!!」」」」」 華やかに装飾された部室と団員三人、名誉顧問になぜか俺の妹、そしてクラッカー。 これは・・・・・・? 「はい!主役も来たことだし、『ハルにゃんキョンくん退院記念”ラブラブ”パーティー』を始めるよっ!」 「えっ!?ちょっと鶴屋さん、あたしラブラブなんて入れてないわよ!?」 「いーのいーの気にしない!ちょっとの遊び心は必要にょろよ?」 どうやら俺たちのためにパーティーを開いてくれたらしい。なんて皆優しいんだろう。 手書きの看板を良く見るとパーティーの前に赤ペンで小さくラブラブと書いてある。きっと鶴屋さんだろうな。 キョンとハルヒの退院パーティー保守 *** 「じゃあ僭越ながらあたしが乾杯の音頭を取らせていただくにょろ! ハルにゃんキョンくん、お見舞いにいけなくてホントごめんね!受験近くてちょっと忙しくてさー」 なんてったってT大ですもんね。 「ありゃ?知ってたのかい?そうなんだよねえ。しかもみくるもだよ?イメージと違うよね! おっと話がずれちゃったにょろ。ま、あたしが行けなくても毎日二人でお楽しみだったみたいだったからねー。 で、どこまで行っちゃったのかな?」 「つ、鶴屋さん、あたしとキョンは別になにも・・・・・・」 「おんやー?そいつはもったいないねえ。若い男女が一つの部屋にしかもベッドまで用意されてたってのに。 おっとまた脱線。まあとにかく、ハルにゃんとキョンくんの全快を祝いまして、かんぱーい!!」 「「「「「「かんぱーい!!」」」」」」 おいどうしたハルヒ、酒も入ってないのに真っ赤だぞ。 「う、うるさい!気にしなくていいのよ!」 キョンとハルヒの退院パーティー保守 *** 「涼宮さん、ちょっといいですか?」 「なに?みくるちゃん」 「素直に好きと 言えない君も 勇気を出して Hey Attack」 「・・・・・・それ・・・・・・」 「これ、涼宮さんが書いた詞じゃないですか」 「そうだけど・・・・・・」 「勇気を出してアタックすればきっとキョンくんだって振り向いてくれますよ!ファイトです!」 「・・・・・・ありがとうみくるちゃん。あたし頑張る」 パーティーの片隅での出来事保守 *** そんなこんなで(今日使うの二回目か?)パーティーもお開きの時間となった。 受験生もいるしハルヒにしては早めの時間設定だったな。 「みんなお疲れ!今日はありがとう。後片付けはあたしがするからみんな帰っていいわ」 「いや、僕も手伝いますよ?」 「あたしも手伝います」 「わたしも」 「勉強なんて1日サボっても変わんないにょろよ」 ちなみに妹は寝た。いや、流石にお前だけってのは・・・・・・ 「何言ってるの?キョンもやるに決まってるじゃない。雑用係が休んでどうするのよ」 結局そういうことですか。まあ皆も手伝ってくれるみたいだし・・・・・・ 「それならば、僕は帰らせていただきますね」 「あたしも帰ります。あ、妹さんはあたしが送ってあげますね」 「帰る」 「そういうことなら帰らせてもらうよっ!」 あれ?さっきと話が違ってません?そういうことならって・・・・・・ キョンとハルヒのパーティー後保守 *** やっぱりあの量を二人で片付けるのは辛いものがあった。 「でもこういうのって 仕事したっ! って感じにならない?」 まあな、たまにはこういうのもいいかもしれんな。 って雨降ってるじゃねえか。傘持ってきてないぞ? 「あたしのが一本あるからそれでいいじゃない」 あのときみたいにか? 「うん・・・・・・ダメ?」 いやいいけどさ。お前はいいのか? 「べっ別に相合傘はカップルがやるものとかそんなんはどうでもいいのよ!意識するから恥ずかしいの!」 なんか話が飛躍したな。 キョンとハルヒのパーティー後保守 *** やることも終わったので俺たちは帰ることにした。 そして適当に雑談をしつつ部室棟の階段を下りた、その時だった。 「きゃっ!」 俺の隣りでハルヒはまたも足を滑らせた。このままいつぞやの悪夢が繰り返されるのだろうか。 結果として繰り返しはしなかった。なぜかって? 俺がハルヒをしっかりと抱きかかえていたからさ。 「キョン・・・・・・あ、ありがと・・・・・・」 お前にもうケガなんてさせねえよ。 と、上の気障なセリフを喋ったのは誰だ。俺か。俺なのか。またこの前みたいなテンションなのか俺は。 しょうがない、このテンションのまま最後までいっちまえ。 「え?ちょ、ちょっとキョン!な、なにするのよ!」 何って背中と膝裏を支えて抱きかかえてるだけだぜ?世間的にはお姫様抱っこと言うらしいが。 降ろしてほしいか? 「・・・・・・別にこのままでもいいけど・・・・・・」 ダイヤモンドは大事に運ばないとな。 「・・・・・・」 ありゃ、流石に今のはクサすぎたか? 「・・・・・・前から言おうと思ってた大事な話があるんだけどいい?」 ああ、いいぞ。聞いてやろうじゃないか。 そう返すとハルヒは俺の首に腕を回してきた。 「あたしね、ずっとキョンのことが・・・・・・」 二人は階段から落ちたが、そのおかげで―― 新たな階段を一段上ることができたのかもしれない。 キョンとハルヒの入院生活保守 fin
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/1843.html
涼宮ハルヒの日記 今日は、日曜日。 どうせみんな暇だろうと思って電話してみたけど古泉君は、 『すみません、今日はどうしても外せないようじがありましてそれではまた明日学校で、では失礼します』 なんというか古泉君らしい丁寧な口調で電話をきった。 で、みくるちゃんは『あっ、涼宮さんどうしたんですか?』と言ったので今日いつもの所にこれるか聞いたら『今日は、…ごめんなさいお買い物に行くから…ごめんなさい今日は行けません・・・』 みくるちゃんらしい言い方で電話をきった。明日学校でバニーの服を着せて門の所に立たせてやる「SOS団をよろしく~」とでも言わせながらあたしも一緒に 有希にかけたら『・・・・・・・・・』無言だし今日いつもの所にこれるか聞いたら『今日は無理』理由を聞いたら『今日は、お買い物』といって無言になった『そう、じゃ明日学校で会いましょ』そういって電話をきった 残るのは 『あっキョン今からいつものとここれる?』 『これるっていったいなにをする気だ?』 『いいからこれるの?これないの?』 『行けるかどうかと言われれば行けるが・・・』 『そ、じゃ2時に集合ね、遅れたら罰金だんねっ!』 『はいはい』 キョンは、予定も無く空いていた、そうと決まればさっそく着替えてしたくしていつもの所にいかなきゃ。 なんたって今日は、今日は、 キョンとデートなんだもん! 会ったらなにから話そう…いっそのこと告白でもしてしまおうか。 いや、SOS団の今後のことや夏休みのことでも話そうか。 なんだろう、話したいことがいっぱいありすぎてわかんないや とりあえず今日は、キョンとデートなんだし時間もある。 いそがないとキョンが先に着いてるかもしれない そう考えながらいつもの『所』に急いだ。 キョンの日記 さて今の状況から説明せにゃならんことに代わりないので説明するが、 えーただいまハルヒとデート中である。 集合場所に着くなり 「今日の予定変更」 「おいまて予定変更っていったいなにをするつもりだ?」 「なにって・・・・デ・・デー・・・」 「言いたいことがあるなら頭の中で整理してからいえ」 「じゃあ一回しか言わないからよく聞きなさいよ」 なぜかハルヒは大きく深呼吸してから三文字の単語を発した。 「だからデ・・・デートしようってぃって・・・」 「最後何言ったかよく聞こえなかったがなんていった?」 「だからデートしようって・・・いってんでしょ!」 一瞬、いやかなりの時間がたったか、今ハルヒはなんて言った?デート?あのハルヒがか? 「恋愛感情なんて一種の精神病の一種なのよあんなもんに時間を費やす理由を教えて欲しいもんだわ」 なーんていっていたハルヒがデート?ホワイ?なぜ? 「何よ・・・もしかして嫌?」 「いーやべつにかまわんが」 「じゃあきまりねっ!」 ハルヒは、100ワットはありそうなとびきりの笑顔を俺にむけ何処にいくかをいつもの溜まり場である北口前の近くにある喫茶店、とわ言っても毎回財布が軽くなっていくのが悲しい。 「遊園地?水族館?それとも…」 「おまえは何処にいきたいんだ?」 「遊園地!」 そうしていそいそ電車に乗りちょうど眠たくなってくる30分間を何とかのりきり隣町、とわ言っても乗り換えを二回もして2、30分ばかし歩いていかにゃならんとーい所にあるでっかい遊園地だ(隣町じゃなくて他県にある遊園地だ、クソなんで市内に造らなかったんだいまいましー) 「ほら、キョン早く早く!」 「待てよっ!」 券を買って中に入るととんでもない数の人がうごめいていた。 「これだけ混んでると進みにくいわね…」 ふと後を見てみると「最後尾」とかかれたプレカードを掲げている人をよく見ると 古泉がそこにいた。 「あっ古泉君じゃない?こーいずーみくーん」 「おや、どうなされたんですか?涼宮さんそれと…」 そのにやけた顔をこっちに向けるな。 「それより古泉君何してんの?」 「バイトですよ」 「バイト?」 胡散臭い事ぬかすな何かある絶対に何かある。 「ふーんじゃバイトがんばってね」 ハルヒが歩きだしたので着いて行こうとしたら 「涼宮さんと何かあったんですか?」 「どうもこうもいきなり呼び出されたかと思ったらこの通りだ」 「デート・・・ですかまぁ涼宮さんらしい誘い方じゃないですか」 「どこがだ」 「つまり涼宮さんはあなたとデートをしたっかたとよめますね、ですがそのままデートの誘いをする訳にもいかないと思ったんでしょうあなたが今日誘われた理由わなんですか?」 「いきなりこれるかどうかを問われたが」 「涼宮さんもあなたに断られるのが怖かったんでしょうだからいけるかどうかだけを聞いてきたそして希望通りの回答が帰ってきた…まあこんなとこでしょう」 「すなおにデートならデートっいえばokしていただろうに俺だって反対ばっかしてるワケじゃないってのによ」 「そこに乙女心が作用したんでしょう」 「こらっーキョン早く行くわよ!」 「それでわどうぞデートの続きをおたのしみください」 「そのまえに一つきいておく、今回は『機関』とやらは関係ないんだな?」 「ええまったくかんけいないですよ」 「じゃバイトせいぜいがんばれじゃな」 「・・・・こちら古泉ターゲットがそちらにいきました」 『了解。引き続きターゲットの動きに注意せよ』 「はい、わかりました、」 「キョン!早くしなさい!観覧車はすぐに混んじゃうだからね!」 「もう混んでるぞ」 「え…もうっキョンご早く来ないから混んじゃったじゃない!」 「古泉と話ていた時間は五分もかかってないぞ」
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/2658.html
古泉が病室を出て行き、部屋の中には俺とハルヒの二人っきりとなった。 ……何だ、この沈黙は? なぜだか全くわからないが微妙な空気が流れる。 おそらくまだ1、2分程度しか経っていないだろうが、10分くらい経った気がする。 やばいぜ、ちょっと緊張してきた。何か喋らないと。 『涼宮ハルヒの交流』 ―最終章― 沈黙を破るため、とりあえずの言葉を口にする。 「すまなかったな。迷惑かけて」 「別にいいわ。けどいきなりだったから心配したわよ。……もちろん団長としてよ」 「なんでもいいさ。ありがとよ」 再び二人とも言葉に詰まる。 「……あんた、ホントにだいじょうぶなの?」 「どういう意味だ?」 「だってこないだ倒れてからまだ半年も経ってないのよ。何が原因なのかは知らないけどちょっと異常よ。 ひょっとして、あたしが無茶させすぎちゃったりしてるからなの?」 確かに、普通はそんなにしょっちゅう意識不明にはならないよな。 けど今回の原因はハルヒだなんて言えねぇし。 どうでもいいが無茶させてる自覚があるならもっと優しく扱ってくれ。 「だいじょうぶさ。もうピンピンしてる。別に体に問題があるわけでもない」 「そう……、ならいいけど」 ハルヒに元気がないな。そんなに心配してくれてたってのか? それともここも実は異世界で、これは違うハルヒだったりするのか?いやいや、そんな馬鹿な。 ……ん?そうだな、そういえば言わなきゃいけないことがあったな。 「ハルヒ、昨日はすまなかったな」 ハルヒは不思議そうな顔で目を向ける。 「だから、別にいいって言ったでしょ」 「……ああ、いや、そのことじゃない。昨日の昼のことだ」 「ああ、……あれね」 途端に不機嫌な顔になる。やっぱかなり怒ってんのか。 「つい、つまらないことでムキになっちまったな。すまん。 けどな、お前からはつまらないことかもしれないけど、俺にとっては結構大事なことだったんだ」 「………」 あのハルヒと同じように黙ったままだ。 「別にSOS団として不思議を探すのは構わん。宇宙人、未来人、超能力者を探すのも構わん。 お前が手伝って欲しいってんならできる限りのことはやってやりたい。できる限りはな。 けど、な。……そいつらを見つけたら、俺は用済みになるのか?」 「そんなことは言ってないでしょ!」 「言ってはないかもしれんが、ひょっとしたらそうなんじゃないかって思ってしまったんだ。 そうしたら、きっと怖くなっちまったんだろうな」 「そんなことあるわけないでしょ。あんたあたしが信じられないの?」 「そうだったのかもしれない。いや、信じられなかったのは俺自身なのかもしれない。 そんなやつらがいる中で、いつまでもお前の側にいられるような資格がないと思ったのかもしれないな」 「そんなことないわ。だってキョンは、……キョンはあたしにとって……。あたしはキョンが……」 「でも、もうそんなことはどうでもよくなった」 ハルヒは驚いて悲しそうな顔になった。心なしか、涙が浮かんでいるようにも見える。 「まさか……もうやめるって言うの?なんでよ!?」 ああ、そういう風に捉えますか。というか言い方がまずかった気はしないでもないな。すまん。 「いや、すまん。そういう意味じゃない。俺はこれからもSOS団の一人としてやっていくつもりだ。 俺が言いたいのは、そのなんていうか……簡単に言うと自信が付いたってこと、か?」 「何言ってるのあんた。全然意味わかんないわよ」 だろうな。俺もよくわからん。どうやって話を進めたらいいやら。 「昨日言っただろ。普通じゃない人間なんて見つかりこないって。あれは本当のことだ。 けど、それはそういうやつらがいないって意味じゃない。こっちからは見つけられないって意味だ。 だっていきなり『お前は宇宙人か?』って聞かれて、はいそうです、って、本物だとしても答えるわけないだろ?」 「じゃあどうしろっていうのよ!」 「別に何もしなくていいと思うぞ。強いて言うなら、そういうやつらが現れるのを願い続けることだな。 そうすれば、お前の周りにいるそいつらは、時がくれば自分からそのことをお前に告げてくれるさ」 「あのねぇ、あたしには気長に待ってる暇はないのよ。時っていつよ?こないならこっちから探すしか――」 俺はハルヒの小さな肩に手をやり、ほんの少しだけこちらに引き寄せる。 「その時ってのは今だ」 「あんた何言ってんの?」 「あのな、ハルヒ。実は俺、異世界人なんだ」 「は?」 さすがに目が点になってるな。そりゃそうか。 「俺は異世界人なんだ」 「ちょっと、あんた。本気で言ってんの?んなわけないでしょ」 「本気だ。俺は異世界人なんだ。まぁそりゃあ普通の人間には簡単には信じられないかもしれないだろうがな。 それにしてもせっかく待ちに待った異世界人が現れたってのに、信じないなんてもったいない話だよな」 「わ、わかったわ。仕方ないから信じてあげるわよ」 なんて簡単に挑発にかかるんだ。こいつは。 「だからな……」 「だから何よ」 ハルヒの肩に置いていた手に、ギュッと力を込める。 やべぇ、めちゃくちゃ緊張してきた。 「俺は普通の人間じゃない異世界人だから、俺と付き合ってくれないか?」 ああ、ついに言っちまった。 「は!?あ、あんたちょっとまじで言ってるの?」 「ああ、俺は大まじだ。お前言ってただろ?普通の人間じゃないやつがいたら付き合うって。ありゃ嘘か?」 「嘘なんかつかないわよ。けど……、まぁあんたが異世界人だってんならしょうがないわね。 わかったわ。そこまで言うなら付き合ってあげるわよ」 意外とすんなりいったな。『あんたが異世界人だっていう証拠は?』とか言われたらどうしようかと思ってたが。 証拠なんてないしな。行き方も知らない。まぁハルヒは実は自分で知っているわけだが。 俺が本物かどうかなんてたいした問題じゃないってことなのか? まぁなんでもいいさ。 「一つ聞いてもいい?」 「なんだ?質問にもよるぞ」 「あんたの言う異世界ってどんな世界?」 どんな世界、か。どう言えばいいものか。ここと変わんねぇんだよなぁ。 「基本的にはこことほとんど同じだな。よくいうパラレルワールドってやつか?人もほとんど同じだ」 「ふーん、てことはあたしとかもいるわけ?」 「ああ、いるぜ。ちゃんとSOS団もある」 「じゃあ、何が違うの?全く一緒ってわけじゃないんでしょ」 そうだな?何が違うんだ?あまり違和感がなかったからな。 「なんだろうな。人の性格とかに微妙に違和感があるくらいか?」 「例えば?」 例えば、か。何かあったかな。 「あ、長門の料理がうまかった。昼の弁当もうまかったし」 ハルヒの目付きが変わる。 「へえー、有希に弁当とか作ってもらってたんだぁ」 いや、まて、それはだな。いろいろあって、とりあえず落ち着け。な。 「……まぁいいわ。そっちのあたしはどんな感じ?」 どんなって言われてもなぁ。確かにちょっと違ってはいたが。力のこともあるし。 「……お前をさらに強気にした感じだ」 としか言いようがない。 「なるほどね。まぁいいわ」 「というかお前案外簡単に信じるんだな」 「嘘なの?」 「いや、そういう意味じゃないが」 「ならいいじゃない。あんたが本当って言ってるならそれでいいのよ。何か問題あるの?」 「いや、ちょっと話がうまく行き過ぎてて。ハルヒ、本当に俺でいいのか?」 「あたしがいいって言ってんだからそれでいいのよ。何?取り消したいの?」 「そんなわけあるか!俺はお前のことが、……本当に好きなんだから」 空いているもう片方の手もハルヒの肩に置く。 「ならさっさと好きって言いなさいよね。全く。こっちだって不安なんだから」 「そうだな、すまん。……ハルヒ、好きだ」 「あたしもよ。……キョン」 両の手に少し力を入れて引き寄せると、それに従いハルヒも近づいてくる。 ……あと20cm。 俺が顔を近付けるとハルヒも顔を近付ける。 ……あと10cm。 残りわずかのところでハルヒが目を瞑る。 ……あと5cm。 顔を少し傾け、目を閉じているハルヒの唇に俺の唇をそっと重ね―― コンコン! バッ!! ドアがノックされる音に慌ててハルヒの体を引き離す。 「入りますよ」 そういって古泉が入ってくる。そういえばジュースを買いに行ってたんだっけ? というか手ぶらじゃねぇか。どういうことだ?その満面の笑みは何だ? 「いえいえ、なんでもありませんよ。」 古泉の後ろには隠れるようにしている二人の姿が見える。 お見舞いのフルーツセットと、それとは別にお見舞いの品の袋を持った朝比奈さんとなぜか大量の本を持った長門の姿が。 「長門、それに朝比奈さんも。来てくれたんですね」 「……来ていた」 「キョ、キョンくん、具合はどうですかぁ?」 ん?なんか様子が変だ。朝比奈さんに至っては顔が真っ赤だし。 ってハルヒも顔が真っ赤になってるな。しかも口を開けたまんま固まっている。どういうことだ? 「古泉、何かあったか?ジュースはどうした?」 「ああ、そういえば飲み物を買いに出たのでしたね。うっかりしてました」 「は?じゃあお前はジュースも買わずに今までどこ……って、お前まさか!?」 「いやあ、この部屋を出たところで偶然このお二方と会いましてね。中に入ろうかとも思いましたが……ねえ?」 と、長門の方に振る。 「……いいところだった」 嘘だろ?まさかこいつら全部聞いてたんじゃ。 「……古泉、どこからだ?」 「そうですね。『すまなかったな。迷惑かけて』からですね。最初の方でしょうか?」 最初の方っていうか一番最初だぜこのヤロー。 ……そこから全部聞かれてたってことなのか?そんな馬鹿な。ぐあっ、死にてえ。 思わず頭を抱える。ハルヒはまだ固まっている。 「キョンくん、気を落とさないでください。だいじょうぶですよぉ。カッコ良かったですぅ」 いえ、朝比奈さん。それ全くフォローになってませんから。 「まぁいいじゃないですか。一件落着ですよ」 くそっ、こいつに言われると腹立つな。 どうでもいいけどお前間違いなく開けるタイミング狙ってただろ。 「さて、なんのことでしょう?」 くそっ、いまいましい。 ハルヒいい加減正気に戻れ。 「わ、わかってるわよ。うっさい」 まぁいいさ。これでこの一件は無事に終わったってわけだ。やっぱりこういう世界が一番だな。 あんな悪夢のような時間は出来ればもう過ごしたくないものだ。 俺はここでこのSOS団のみんなと俺は楽しく過ごしていくさ。 だからそっちのSOS団もそっちで楽しくやってくれ。そっちの俺たちも仲良くな。頑張れよ、『俺』。 「とりあえず元気そうで良かったですぅ」 「安心した」 二人からちゃんとしたお見舞いの言葉をもらっていると、 「やっぱりキョンを雑用係にして酷使し過ぎたのがまずかったのかしらね」 だから自覚あるならやめろっての。 ハルヒは朝比奈さんが持ってきた俺へのお見舞いのメロンを食べ終えて言った。 ってお前、そのメロン全部食ったのかよ。それ俺のだろ? 「そうかもしれませんね」 古泉、お前思ってないだろ。とりあえずその手に持ったバナナの束を置け。 「だからキョンには新しい役職を与えて、雑用はみんなで分担することにするわね」 そう言ってハルヒはどこからともなく腕章とペンを取り出した。 って、どこから出したんだよ。ってかなんでそんな物持ってんだよ。 キュキュっとペンを走らせ、それを俺に突きつける。 「これでどう?嬉しいわよね」 渡された腕章には大きな字でこう書かれていた。 『団長付き人』 やれやれ、これからも大変そうだな。 今日からは俺も異世界人、これでSOS団の一員として新しくスタートってわけだ。 確かに向こうに行ってた時間は悪夢のような時間だったかもしれない。 けど、こうなってみると、この結果になったのは間違いなく異世界のおかげと言えるだろう。 異世界でのSOS団の出会い、ハルヒとの出会いがなければ俺はハルヒに告白なんてできなかったたろう。 ハルヒ。ひょっとしてこれもお前の望んだとおりの結果なのか? 異世界との交流を通して、俺に答えを出すことを望んだのか? まぁなんでもいいさ。 お前も望んでくれるなら、俺はいつまでもハルヒの隣にいたいと思う。 「ああ、ありがたく頂くよ。これからもよろしくな」 さて、これからはどんな新しいものとの交流が待っていることやら。 今から楽しみだぜ。 「ちょっとキョン!あたしのプリン食べたでしょ!?」 「いや、それ朝比奈さんが俺のお見舞いに持ってきたやつだから。しかも俺は食ってないぞ」 周りを見渡す。長門が食べていた。 長門はハルヒの方を向いて僅かだけ微笑みを感じさせる顔で言う。 「プリンくらいはあなたから貰ってもいいはず」 ◇◇◇◇◇ 最終章後編へ
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/519.html
放課後の教室。 谷口が慌てた様子で話し掛けてきた。 「キョ、キョン…ちょっと耳貸せ…!」 なんだコイツはいきなり。 俺は壷でも売りつけられるのか。 「……い、今、涼宮を出せってヤツが来て…」 俺の耳に近寄ると小声で谷口はそう言った。 何故、俺にその話をする。 俺はハルヒ宛の伝言板じゃないぞ。 「…本人に言え、直接」 「い、いや…それが…」 谷口が指差した方向を見やる。 …そこには明らかにガラの悪そうな二人組が居た。 ……あんな奴等、北高に居たんだな。 谷口が躊躇したのも分かる。 …ハルヒと会わせた日には、間違いなく問題が起こりそうだ。 俺がどうしたものかと迷っていると後ろからハルヒが声を掛けてきた。 「あんた達、なにヒソヒソと人の名前呼んでるのよ?」 「す…涼宮…!」 どうでもいいがビビりすぎだぞ、谷口。 「何? あたしに用事があったんじゃないの?」 「いや…そ、それが…」 谷口が二人組を見る。 「……ははーん…そういうコト」 それだけでハルヒにはどういう事か分かったらしい。 …妙に慣れてるなコイツ。 「いいわ、あたしを出せっていうんでしょ?」 それだけ言い残すとハルヒは教室を出て、二人組の方へ歩いていった。 …やれやれ。何か問題があるとマズイからな。 …一応、見といてやるか。 ハルヒと二人組が何やら話している。 …いや、ハルヒはほとんど口を開いていないか。 二人組の内の、特にガラの悪そうなヤツが一方的に喋っている感じだ。 ハルヒは黙って聞いている。 その内、話していた男がハルヒの肩に手をかけた。 …ずいぶんと積極的なヤツだな。 何か因縁事でもあるのかと思ったが、どうやらそっちの話では無いらしい。 ハルヒが男の手を払う。 かと思えば、ハルヒが何かをまくし立て始めた。 あれは十中八九、悪口だな。 その口がはっきり「バカ」と動いているのが見えた。 …可哀想に。あれだけ至近距離でマシンガン罵倒されたら立ち直れないかも知れん。 ガラの悪い男はぷるぷると震えている。 …よっぽどショックな事を言われたんだな。分かる、分かるぞ、その気持ち。 ハルヒは興味を無くしたのか、こちらを向き、教室に戻ろうとする。 「てめぇ! 待てよ涼宮ッ!」 そのハルヒの手を、震えていた男が捕まえた。 「なんなのよ、あんたっ!」 ハルヒが叫び、もがくも、男は完全にアタマに血が上っているようだ。 ハルヒの腕に男の爪が食い込んでいるのが見えた。 …いくら何でもやりすぎだ。 ……やれやれ。またか。また俺も巻き込まれるのか。 …まぁ、見た目にもあまりよろしく無いしな。 それに放って置けば、ハルヒがどんな逆襲に出るか分からん。 ……俺はハルヒを助けるんじゃないぞ? …男の方を心配してやってるんだ。 そう考え、俺が教室を出ようとしたその時、事件は起きた。 ハルヒが男の手に噛み付いた。 「痛ってぇッ! このクソ女ッ!」 男が痛みにハルヒを離す。 「ナメてんじゃねぇよ、てめぇッ!」 男が再びハルヒを捕まえようと手を伸ばした時、ハルヒが素早く体を屈めた。 男の手はハルヒの頭上を通過し、目標を失った男はバランスを崩す。 男がハルヒに覆いかぶさりそうになったかと思うと、ハルヒが凄まじいスピードで体を捻った。 ハルヒの上履きがキュッと小気味いい音を立てる。 そうして。 ハルヒは、男のアゴ目掛けて、伸び上がるようにその脚を振り抜いた。 「がふっ!」 蹴られた男が派手に吹き飛ぶ。 …後ろ回し蹴り。 ……あまり見れるもんじゃないな。 特に学校では。 「…あ。マズイ」 男が吹き飛ばされたその先、そこには窓ガラスがあった。 ガッシャーンッ!!! 男の背中が勢いよくぶつかったかと思うと、ガラスが派手な音を立てて砕け散った。 …おいおい。 ここは三年B組じゃないぞ。 「…また派手にやったな」 「あたしのせいじゃないわ。そこの男が勝手に吹き飛んだのよ」 俺がハルヒに話しかけた時、すでに彼女は涼しい顔をして、制服の乱れを直していた。 気付けばもう一人の男は逃げてしまったらしく、姿形も見えない。 ずいぶん薄情なお友達をお持ちだな。 吹き飛ばされた男を見れば、完全に伸びている。 その顔にはくっきりと靴跡が浮かんでいた。 ……ハルヒ、恐ろしい子…! 「…どうするんだこれ?」 「知らないわよ。ソイツが勝手に転んだコトにしとけばいいんじゃない?」 いくら何でも無理があるだろ。 「何をやっとるか貴様らーっ!!」 音を聞きつけたのか生活指導の木戸が飛んできた。 …マズイな。木戸は生徒を頭ごなしに叱り付けるので有名だ。 「なんだこれはっ!」 木戸は割れた窓、辺りに飛び散ったガラス、伸びたガラの悪い男を見るとそう叫んだ。 「やったのは貴様かッ!?」 木戸が俺の首根っこを掴む。 …コイツは本当に人の話を聞く気が無いな。 「ぐっ…いや…俺は…」 「…先生。違うわ。やったのはあたしよ」 俺が答えに窮しているとハルヒが木戸に進言した。 「何ぃ…? キサマか涼宮ッ! ちょっと生徒指導室まで来いッ!」 「…えぇ」 ハルヒは伸びた男を一瞥すると、大人しく木戸に付いて行く。 俺はその背中を見ながら、何だか胸がモヤモヤしていた。 ………なにか違う。 …ハルヒは…まぁ悪くないとは言えないが、ハルヒだけが悪者って訳でもないだろう。 …かと言って、木戸に何かを言った所で、変わりそうにない。 ………今思えば、俺もアタマに血が上っていたのかも知れない。 気付けば廊下の隅に置かれた消火器を手に取り、手近な窓ガラスに叩き付けていた。 ガッシャーンッ!!! 先程に負けず劣らずデカい音が校舎に響き渡り、窓ガラスは粉々に砕ける。 …手が痺れた。 「き、き、貴様ッ! 何を考えとるかッ!!!」 「…キョ…キョン…?」 派手な音に、木戸とハルヒが振り返り、俺を見ていた。 木戸は血管が浮くほどプルプルと震え、怒り心頭といったご様子だ。 ハルヒはと言えば、口が開くほどに驚いている。 「…いえ、そこに1メートルクラスの馬鹿デカい蚊が居たもんで」 「バ…馬鹿もんッ! お前も生徒指導室に来いッ!!!!」 そうして。 生徒指導室でたっぷりと絞られた後、俺とハルヒに下された判決は停学3日という、とてもありがたいものだった。 「…なんであんなコトしたのよ?」 生徒指導室から開放され、帰ろうとしていると、ハルヒが俺に聞いて来た。 「…別に。お前だけが悪いって訳でも無かったからな」 「…それとあんたがやったコトと、何の関係があるワケ?」 「…何の関係も無いな」 「………ぷっ…くっくっ……あははっ! あんた馬鹿じゃないのっ?」 ハルヒが笑い出したかと思うと、俺にそう言った。 …言うな。俺もそう思ってるんだ。 「ま、いいけどね。あたしも一人で停学なんて、つまんなかったし。いい道連れが出来たわ」 「…お前が何を考えているのか知らんが、俺はバイトだぞ」 「…バイト? あんた、バイトなんてしてたっけ?」 「ガラス代だ」 過失ならともかく、俺がやったのは間違いなく故意だ。 しっかりと学園からガラス代を請求されるだろう。 それを親に払わせるのは忍びない。 「…ふーん…そっか。バイトか。いいわね! 面白そう、あたしも一緒にやるっ!」 「…本気か?」 「あったりまえじゃない! 停学っていったって謹慎ってワケじゃないんだしっ!」 …普通、停学と謹慎はイコールだぞ。 …ま、いいけどな。 そうして俺とハルヒは何のバイトをするか相談しながら家路につきましたとさ。 めでた……くねぇな。ねぇよ。 完
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/4282.html
涼宮ハルヒ挙国一致内閣 国務大臣(敬称略) 内閣総理大臣 涼宮ハルヒ 内閣官房長官 古泉一樹 総務大臣 国木田 法務大臣 新川(内閣法制局長官兼務) 外務大臣兼沖縄及び北方対策担当大臣 喜緑江美里 財務大臣兼金融担当大臣 佐々木(内閣総理大臣臨時代理予定者第一位) 文部科学大臣 周防九曜 厚生労働大臣 朝比奈みくる 農林水産大臣 会長 経済産業大臣 鶴屋 国土交通大臣 藤原 環境大臣 谷口 防衛大臣 長門有希 国家公安委員会委員長 森園生 国務大臣以外の主な役職(敬称略) 内閣官房副長官(政務) 橘京子 内閣情報官兼内閣危機管理監兼内閣官房副長官補(安全保障・危機管理担当) 朝倉涼子 内閣広報官 妹 内閣広報室企画官 吉村美代子 内閣総理大臣秘書官(政務担当) 俺 ああ、なんというか、呉越同舟という言葉がぴったりな状況に陥ってしまった経緯については省略しよう。 まあ、要するに未曾有の国難ということで、対立していたSOS党と佐々木党が連立して挙国一致内閣を作ったということだ。 じゃあ、とりあえず、上から順番に説明しようか。 ハルヒが総理大臣なのは、当然だわな。何でも一番が好きなハルヒが二番以下の地位に甘んじるわけもない。SOS党は衆参両議院で第一党だから、その党首が総理大臣に選ばれるのは、普通に考えても当然だしな。 古泉は、どこまでいっても、ハルヒのフォロー役というわけだ。実質、この内閣を取り仕切っているのは、こいつということになる。ご苦労なことだ。 国木田は、総務大臣の役目を飄々とこなしている。昔からできるやつだったし、任せておいて問題はなかろう。 新川さんは、年齢構成が若すぎるこの内閣においては、御意見番的な存在だ。 喜緑さんは、あの薄い微笑で対外交渉をこなし、諸外国からはタフなネゴシエーターとして認識されている。 佐々木のところの括弧書きは、俗にいう「副総理」というやつだ。この国難の中で、財政金融をつかさどるのはかなりの激務だが、よくやってくれている。 九曜に文部科学大臣を任せるのは、日本の将来を担う子供たちのためを思うとおおいに不安なのだが……。教育行政が滞りなく遂行されることを祈るばかりだ。 朝比奈さんは、まさに適役だと思うね。ただ存在しているだけで、国民の福利厚生に絶大なる効果がありそうだ。 会長さん(俺はいまだに彼の本名を知らん。みんな会長って呼ぶしな)は、生徒会長時代に培った実務能力で、農林水産大臣の職務を難なくこなしている。 財界の重鎮である鶴屋さんは、まさに適材適所といったところ。あの明るい振る舞いで、日本の景気も明るくしてくれそうだ。 藤原とは個人的にはそりが合わんが、この国難の中ではそんなこともいってられん。嫌味なやつだが、仕事は真面目にこなす。ただ、協調性が足りないのが問題だわな。国土交通省は防災担当機関でもあるから、いざというときは他省庁との連携が重要なんだがなぁ。 なんで谷口が大臣なんぞになれたのか。まあ、ハルヒの気まぐれなんだろうが。環境行政が停滞しないことを祈る。 長門が防衛大臣を担う限り、日本の国防は安泰だ。ひたすらに頼もしい。ただ、仕事をさっさとすませて、国会図書館によく出没するという噂が絶えない。 森さんは、警察組織のトップ。彼女がにらみをきかせれば、日本の治安は安泰だぜ。一方で、「機関」を通じて裏社会も仕切っているという黒い噂が聞こえてきたりも……。 橘京子は、古泉と一緒に内閣を取り仕切っている。SOS党と佐々木党の呉越同舟状態をうまく切り盛りしていくためには、この二人の連携は非常に重要だ。だから、佐々木を異常なまでに持ち上げて、ハルヒの機嫌を損ねるのはやめてほしいのだが。 朝倉涼子は、内閣官房の中では、古泉、橘に次ぐ相当な実力者である。情報・危機管理・安全保障を一手に握ってるからな。本人は防衛大臣をやりたがってたんだが、暴走して他国に戦争でも吹っかけられたら困るので、裏方に収まった経緯がある。 最近朝比奈さんにそっくりになってきた俺の妹は、内閣広報官。これが意外に天職だったらしく、毎日楽しそうに仕事をしている。 ミヨキチは、妹の補佐役といったところだ。妹と仲良くやっているようで、大変結構なことである。 で、俺はハルヒの秘書官というわけだ。ハルヒに振り回される雑用係というポジションは、どこにいっても変わらないものらしい。まったく、やれやれだ。 首相官邸。 「佐々木さんが、涼宮さんに使われる立場なんてありえないのです。佐々木さんこそが首相にふさわしいのです」 「また蒸し返すんですか、あなたは」 橘京子と古泉一樹が、また口論している。 ここ最近、すっかりお馴染みになってしまった光景で、もはや口をはさもうとする者はいなかった。 「第二党が何をいったって、しょせんは負け惜しみですよ」 「今度の選挙では、必ず勝って見せるのです」 橘京子は、ほおを膨らませて不満顔だ。 「せいぜい、頑張ってください。それよりも、例の件、佐々木党内の取りまとめはしてくれたんでしょうね?」 「もちろんです」 国家公安委員会・警察庁。 森園生は、極秘とスタンプが押された報告書を読んでいた。日本国内を跳梁跋扈する国外の諜報員を「非合法に処理」した記録である。昔はスパイ天国などといわれた日本国であるが、森園生が陣頭指揮をとって対策を進めた結果、状況はだいぶ改善されつつあった。 もう一枚の紙を取り上げる。こちらは何もスタンプは押されてないが、極秘文書には違いなかった。なぜなら、それは「機関」の文書だから。 TFEIの動向。天蓋領域の端末には変化は見られないが、情報統合思念体の端末は増員され、政府組織の中に潜入していた。いつでも政府を乗っ取れる体制でありながら、彼女たちは何もしようとしない。観測任務を第一とする態度は不変である。 現在、政府を乗っ取っている立場である「機関」と橘京子の組織としては、TFEIたちのそのような態度は不気味ですらあった。 政府の国防・外交・危機管理を押さえているTFEIトップスリー、長門有希、喜緑江美里、朝倉涼子ですら、人間レベルでなしうる以上のことをしようとはしていない。そして、そのレベルですら完璧人間に近いのだから、文句のつけようもないのだ。 森園生は、二つの文書を丸めて灰皿に置くとライターで火をつけた。情報流出を防ぐ最も手っ取り早い方法だ。 「宇宙人たちは不干渉ということね。なら、未来人たちはどうかしら……?」 そのつぶやきを耳にした者は、誰もいなかった。 厚生労働省。 真面目に書類仕事をこなしている朝比奈みくるのもとに、藤原がやってきた。 彼は、入ってきた途端に盗聴防止装置を稼動させると、口を開いた。 「あんたは、このまま状況を座視してるつもりか?」 「当然でしょ。介入は許可されてないわ。藤原くんだって同じじゃないかしら?」 「何百万人もの人間が犠牲になるんだぞ。それを黙って見てるつもりか?」 朝比奈みくるは、簡易シミュレーターを取り出し稼動させた。 無数の曲線と数式と記号で構成された光の三次元樹形図が空中に展開される。 「実際、それを阻止しようと思えば、介入しなければならない時点は1249箇所。二人だけじゃ、手に負えないわよ。あからさまな規定事項破壊行為だし、介入が全部終わる前に私たちが始末されちゃうわ」 朝比奈みくるは、簡易シミュレーターをポケットにしまった。 光の樹形図が消え去る。 「あるべき未来を守るためには仕方ないわよ」 「そんな未来なんぞ糞食らえだ」 「藤原くんだって分かってるはずでしょ。私たちはこの悪しき世界を守るために存在する悪党だってことは」 「……」 藤原の顔が渋面を形作る。 「それが嫌なら、未来に帰って組織を抜けることね」 国立国会図書館。 読書にいそしんでいた長門有希のもとに、喜緑江美里と朝倉涼子がやってきた。二人とも半ステルスモード。図書館という空間に同化している長門有希はともかく、二人はこのような場所では目立ちすぎるからだ。 長門有希も、半ステルスモードに移行した。 「大規模な情報操作をしない限り、戦争は不可避。その旨は、既に報告済みである」 「私も同じです」 「私も同じよ。三人とも意見が一致するなんて、つまんないわね」 「情報統合思念体からの指令は、観測の継続。積極的な干渉の禁止、つまりは、不干渉原則の維持である」 「穏健派はしぶしぶ同意したみたいですけどね。戦況が悪化した場合に、涼宮ハルヒの力が暴走して危険を招くことを懸念しているようです」 「その方が情報爆発を観測できていいじゃないの」 朝倉涼子はあっけらかんとそう発言した。 「主流派は、今のところ急進派と同意見。ただし、情報統合思念体に危険が及ぶことになれば、穏健派とともに阻止することになるだろう。むしろ、気になるのは天蓋領域の動向」 「周防九曜は、相変わらずのようです。あちらも、不干渉という点ではこちらと変わらないのではありませんか。むしろ、未来人の方が干渉してくる可能性は高いと思いますけど」 「戦争の発生自体は、彼女たちにとっても規定事項であると思われる。そうでなければ、そろそろ動きがないとおかしい」 経済産業省。 鶴屋大臣は、いろんな方面に電話をかけまくっていた。 「……戦争ともなれば鉄鋼の増産は不可欠だからねっ。……生産ライン増強の補助金? いやぁ、お国の財政が厳しくてねぇ。……あっ、そんなこと言っちゃっていいのかなぁ? あのことをバラしちゃうよっ。……うん、理解してくれて助かるにょろ。じゃあ」 電話を置き、次の話し相手の電話番号を確認する。 「ええっと、次は、○○商事だったかな?」 鶴屋大臣の脅迫電話は、その日一日中続いていたという。 首相官邸。 「ああもう! 今日もくだらない仕事ばっかりだったわね!」 「仕方ないだろ。一国の首相ともなれば避けられない仕事はいくらでもあるさ」 俺は、文句たれるハルヒをなだめる役目だ。この役目は昔から俺のもので、いまだに免れることができてなく、おそらく将来もずっと続くだろうと思われた。 なんたって、俺は、栄えあるSOS党党首殿の夫だからな。今さら免れることは不可能だろうし、その気もない。 「ねぇ、キョン」 ハルヒは俺の背中に手を回して抱きついてきた。 「なんだ?」 「あたし、そろそろ子供ほしい」 「いきなり何言い出すんだ、おまえは」 「いや?」 ハルヒの表情は真剣そのものだった。 「あのなぁ、ハル……」 俺が言いかけた瞬間に、背後から声が降ってきた。 「涼宮内閣腐敗の現場、そんなところだね」 振り向くと、そこには佐々木がいた。 「腐敗といってもこの程度でね。申し訳ない。でも、部屋に入ってくるときはノックぐらいはしてくれよ」 「したよ。ただし、お二人とも自分たちの世界に没頭するあまり、ノックの音を認識することを脳が拒否していたようだけどね」 俺たちは二人して顔を赤くするしかなかった。 「何の用だ?」 「酷い言い方だね。僕は、ここ一週間ほとんど寝ないで、この『戦時財政計画』をまとめていたというのに。ねぎらいの言葉ぐらいほしいところだ」 佐々木は、右手に握っていた分厚い書類を、近くのテーブルの上に無造作に置いた。 「すまん。それはご苦労だったな」 「ありがとう。君にそう言ってもらえると、僕の苦労も報われるというものだ」 何を大げさなと思っていると、背後に寒気を感じて振り向いた。 ハルヒが、剣呑な視線で佐々木をにらんでいる。 「涼宮さん。そんな目でにらまないでよ。別にあなたの夫をとろうなんて思っちゃいないわ。私だって、その辺はわきまえているつもり。キョンは誰にだって優しい人、涼宮さんだって分かってるでしょ?」 「分かってるわよ!」 ハルヒは不機嫌な顔のままだ。 「涼宮さん。お互い、この内閣が続く間だけでも仲良くやりましょう」 ハルヒはしぶしぶ頷いた。 「なあ、佐々木」 「なんだい?」 「この内閣が終わったら、おまえたちはまた野党に戻るのか?」 「当然だよ。キョンだって分かってるはずだ。涼宮さんには、常に張り合える敵役が必要なんだ。今は外敵がいるからいいけど、それがなくなったら、張り合いがなくなる。ならば、その役目は僕が果たそう」 「でも……」 「僕自身も、そういう役回りを結構楽しんでるのでね。おかげで、涼宮さんと出会えてからの人生はとても充実している。では、馬に蹴られないうちに退散するとしよう」 佐々木は去りかけて、再びこちらを向いた。 「キョン。君が愛妻家なのは結構なことだが、自重してくれたまえよ。この未曾有の国難の時期に、首相閣下が産休では、国民に示しがつかない」 俺たちが何かをいう暇すら与えず、佐々木は足早に去っていった。 終わり
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/554.html
ねぇ、キョン。 ねぇ、キョン、返事をして? ねぇ、キョン・・・。 聞いて、あたしの話を聞いて。 キョン! ねぇ、キョン。 あなたはあたしを裏切らないよね? ハルヒの声がした。 ハルヒが俺の名前を呼んでいる。 どうしたんだハルヒ? 目を開けて起き上がると、そこは色も音も無いただ真っ黒な空間に俺は居た。 見渡すほどの広さも感じられない。ただ黒一色の空間。 足元もフワフワとして、まるで星一つ無い宇宙空間に放り出されたようだ。 俺は確かベッドで眠っていたはずだ。それがどうしてこんな場所に居るんだ? まさか例の閉鎖空間とやらに呼ばれてしまったのだろうか。 なら、ハルヒもこの場所に居るはずだ。どこにいるんだ、ハルヒ。 「ハルヒ!」 ハルヒの名前を呼ぶ。だが返事は無い。 ハルヒの声がして、この妙な空間・・・閉鎖空間だと思ったが違うのか? なら、例の急進派か? 「ハルヒ!おい、返事をしてくれ!ハルヒ!」 もう一度ハルヒを呼ぶ。・・・やはり、返事は無い。 キョン! キョン! キョン! どうして返事をしてくれないの? ・・・・。 ・・・・。 ・・・。 キ ョ ン ! ! 『・・・ョ・・・ン・・・・・キョ・・・・!・・・・ョ・・・』 微かに、だが確かにハルヒの声が聞こえた。やっぱりハルヒはここにいるのか? 「ハルヒーーーっ!!ハルヒ!!どこだ、おーい!!」 大声を出してハルヒの名前を呼ぶ。だが一向に返事は無い。 ・・・どうなっているんだ?ハルヒじゃないなら長門、古泉の誰でも良い。返事をしてくれ。 『 キ ョ ン ! ! 』 突然、この空間全体が揺れるほど大きい声で俺の名前が叫ばれた。 実際、 ず ず ず ず ず ず どっ どっ どっ と辺りが激しくゆれ出した。 ゆれ出した空間の一部が、ぐにゃりと歪む。 それはだんだんと色が付き、ますます歪みを増してゆく。 ぐにゃ その歪みは、だんだんと、ある人間の顔を模してゆく。 「・・・ハルヒ・・・・・・・!?」 空間に浮かんだ歪みは、ハルヒの顔になった。 その顔は笑って、俺を見下ろしている。 呆然とそれを見上げていると、また空間の一部から腕が二本飛び出して俺の体を無理矢理掴んだ。 つ か ま え た ぁ ! 大 好 き よ 、 キ ョ ン ! おわり
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/5338.html
特別前日に何かをしたというわけではないのに朝が辛いというのは冬場ではデフォであり、 高校生になった息子もそれは例外ではないようだ。 「あんた達、さっさとご飯食べないと遅刻するわよ!」 …前言撤回だ。 我が妻、ハルヒにとっては今が冬場の辛い朝だろが何だろうが関係ないようだ。 「なんで母さんは朝からそんなに元気なんだよ…」 息子よ、それは俺も同棲を始めた頃から思っていたが、今そうやってハルヒに絡むと… 「何言ってんの! あんた達が弱すぎるのよ。それにそんなこと言ってる暇があるなら とっととご飯を胃袋に詰め込みなさい」 ご愁傷様だな。 後、あんた達って俺も入ってるんだな。 「ちょっとキョン、あんたもボーっとしてないでさっさとしなさい! 親が息子に負けてどうすんの」 へいへい分かりましたよ。 「じゃあ、言ってきま~す」 「あ、コラ待ちなさい!」 残念だな息子よ。 本日の脱出ミッションも失敗したようだな。 「や、止めてくれ。何時も言ってるだろ母さん。俺はもう高校生だ。だから、それはもう駄目だって」 「何言ってんのよ。高校生になろうが大学生になろうとあんたはあたしの子供なの。 だからこれはあんたの義務でもあるのよ!」 世界の何処にそんな義務があるのかね? 「やれやれ、とっととしてくれ…」 おい、それは俺の口癖だ。 俺のアイデンティティーだ。 勝手に使うのはゆるさんぞ。 「誰かさんと違って素直でよろしい… チュッ。はいっ、じゃあしっかり勉強してくるのよ!」 一言多かったですよハルヒさん。 「へいへい」 お、そろそろ俺も行かんとな。 リアルに遅刻しそうだ。 「じゃあハルヒ、俺も行ってくるよ」 「…………」 勘違いしないでいただきたい。 この三点リーダは万能宇宙人のものではない。 傍若無人ハイスペック奥様涼宮ハルヒのものである。 もとい、涼宮ではなかったな。 では何故そのハルヒがこんなに大量の三点リーダを発してるのかと言うと、 毎朝俺に課せられた義務が施行されるのを待っているからだ。 いや、義務でもあるが世界中で唯一俺に与えられた権利と言ったほうがいいな。 …しかし、何時ものことながら、こうして黙って俺を待っている時のハルヒは可愛いな。 もう、そこそこいい歳になるはずなんだがな… って早くしないと遅刻するっての! 「ハルヒ… チュッ。…そんじゃ行ってくるよ」 「…素直でよろしい。じゃあ、しっかり働いてらっしゃい!」